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2023.11.17

乳製品は本当に骨を強くする?乳製品の摂取量と骨折リスクの関係【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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骨を強化してくれる食材と言えば、まずカルシウムが豊富な牛乳を思い浮かべる方が多いと思いますが、必ずしも牛乳が骨を強くしてくれるとは言い切れないようです。

今回ご紹介するのは、Journal of Nutritional Science誌に、2023年9月11日付で掲載された、乳製品の摂取量と骨折リスクについての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

乳製品の身体への影響は?

乳製品の健康への影響という問題については、これまでに相反するデータがあり、まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、リンやビタミンDも含んでいるため、骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、最近の疫学データにおいては、乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、その摂取によりコレステロールが増加した、というようなデータもあります。このため心血管疾患の予防という観点からは、現行のガイドラインにおいて、その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、というような報告もあります。

乳製品の摂取量と大腿骨頸部骨折リスクの関連を検証

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今回の研究はこれまでの主だった臨床データをまとめて解析する、メタ解析の手法を用いて、乳製品の種類別の摂取量と、寝たきりの原因として重要な、大腿骨頸部骨折のリスクとの関連を検証しているものです。

13の精度の高い臨床研究より、トータルで486950人のデータが解析されています。

その結果、牛乳を全く飲まない人と比較して、牛乳の摂取量が400グラムまでの用量において、牛乳の摂取量が多いほど大腿骨頸部骨折のリスクは増加していて、その影響は1日200グラム当たり、7%(95%CI:1.05から1.10)と算出されました。

その骨折リスクは、1日400グラムで15%(95%CI:1.09から1.21)と最大となり、それを超えると頭打ちになりますが、750グラムまでは牛乳を飲まない人より、リスクの高い状態となっていました。

一方でヨーグルトについての5つの臨床データの解析では、ヨーグルト1日250グラム当たり、大腿骨頸部骨折のリスクは、15%(95%CI:0.82から0.89)有意に低下していて、チーズに関する5つの臨床データの解析でも、1日43グラム当たり19%(95%CI:0.72から0.92)、大腿骨頸部骨折のリスクは有意に低下していました。

そして、牛乳にチーズ、ヨーグルトを併せた、乳製品のトータルな摂取量と大腿骨頸部骨折のリスクとの間には、有意な関連は認められませんでした。

牛乳は骨折リスクを上げ、ヨーグルトやチーズは下げる

このように、今回の最新のメタ解析においても、これまでの主な報告と同様、牛乳の摂取は骨折リスクを、低下させないばかりか、増加させる可能性が高く、ヨーグルトやチーズの摂取は、そのリスクを低下させる可能性が高い、という結果が得られました。

1日750ミリリットルを超えるとリスク増加がなくなる、というのは解釈の難しいデータですが、それだけ沢山の牛乳を毎日飲んでいる人は、人数としてはかなり少なく、アスリートなども含まれている可能性がありますから、そうしたバイアスが掛かっている可能性は想定されます。

ただ、その牛乳によるリスク上昇は、それほど顕著なものではなく、特に高齢者においては、手軽な蛋白の補充に有用性は高いとする報告もあるので、1日200ミリリットルを超えない程度の摂取には、大きな問題はないと考えて良いではないかと思います。

乳製品はバランスよく取り入れよう

従って、牛乳好きの方は、無理にそれを控える必要はないと思いますが、乳製品のトータルな健康影響という観点から考えると、生乳よりもヨーグルトやチーズの方が、健康への良い影響が明確であるという知見のあることは、確認しておいた方が良いように思います。

乳製品は賢く活用するのが吉と思います。

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引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36

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