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2023.02.07

暮らしの中の"ちょっとした運動"。健康にどんな影響を与えるか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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階段上りなど、通勤や家事などの中で行ってる、ちょっとした運動。ウェアラブル端末などで調べてみると、日々の生活だけでも意外と多くの運動量をこなしていることがわかります。

今回ご紹介するのは、Nature Medicine誌に2022年12月掲載された、日々の生活の中でのちょっとした運動の積み重ねが、意外に大きな健康影響を与えている、という興味深い報告です。
  

▼石原先生のブログはこちら

生活の中での運動は、どれくらい健康に影響するか

運動の習慣が健康に良い、というのは、一般にも広く認識されている考え方ですし、それを裏付けるデータも多く報告されています。

ただ、この場合の運動というのは、本人が「運動をしよう」という意識を持って、ある程度のまとまった時間をかけて行う活動のことです。

しかし、運動しようという意思を持っていなくても、生活をしたり仕事をしたりする中で、多くの人が意識はせずとも身体を動かしています。たとえば、ちょっと階段を上の階まで登る、とか、会議まで時間がないので、ミーティングルームまで少し早足で歩く、少し歩いて買い物に出掛け、結構重い荷物を持って、帰りの道を歩く、というような活動です。

こうした活動は、せいぜい数分で終わることも多く、それが1日に数回あったからと言って、大したエネルギーの消費に結び付くという訳ではありません。

それでも、1日中ゴロゴロしていたり、全く外出もしないという生活と比べれば、それなりに活動的ではあるとも言えます。ちょっとした身体活動に、果たしてどの程度の健康効果があるのでしょうか?

ウェアラブル端末により計測可能に

これまであまりそうした、ちょっとした身体活動の評価を、真面目に行ったような研究はありませんでした。

それは、そんなことは些細なことだと思われていた、という側面もありますし、これまでそうしたちょっとした身体活動を、定量的に測定するような簡便な方法がなかった、という点にも理由がありそうです。

近年アップルウォッチのような、いわゆるウェアラブル端末の進歩によって、日々のちょっとした身体活動を、簡単に記録することが可能となりました。

日常生活の身体活動と生命予後の関連を検証

今回の研究はそうしたウェアラブル端末に使用可能な身体活動を記録するソフトを活用して、運動習慣のない一般住民の身体活動のパターンと、生命予後との関連を検証しているものです。

対象は有名なイギリスのUKバイオバンクに登録されている、運動習慣のない中高年の一般住民25241名で、日常の中でのちょっとした身体活動と、平均6.9年の観察期間中における、総死亡や心血管疾患による死亡、癌による死亡との関連を比較検証しています。

その結果、日常生活の中での短時間の身体活動の量が多いほど、運動習慣はなくても、総死亡のリスクも心血管疾患による死亡のリスクも、癌による死亡のリスクも、いずれも低下することが確認されました。

平均で1日3回程度、1回1から2分程度の、階段を上ったり、早足で歩いたりする身体活動により、何もしない場合と比較して、総死亡のリスクと癌による死亡のリスクは38から40%、心血管疾患による死亡のリスクは48から49%も低下が認められました。

これまで、ある程度まとまった運動習慣であるとか、1日数千歩を超えるような歩行などで、達成可能と想定されていた生命予後の改善が、実はこうしたちょっとした日々の身体活動の積み重ねで、達成可能であることが示されたのです。

ちょっとした運動が健康の秘訣

もちろん筋力を増進させるためや、内臓脂肪を減少させるという目的のためには、より負荷の大きな運動習慣が必要であることは間違いがありませんが、意外にちょっとした身体活動だけで、長生きには充分有効というのは、運動習慣が大切と分かっていても、なかなか実現できない多くの人にとっては、非常に勇気づけられる結果です。

意識的にちょっと早足になったり、荷物を持ったり、階段を上ったりすることが、健康の秘訣であることは間違いがないようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36