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2019.12.18

羽毛布団のアレルギー「羽毛ふとん肺」とは?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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羽毛布団を新調した後、咳が止まらなかったり、体調が悪いという方はいませんか。
もしかすると、それは羽毛によるアレルギーが起きているかもしれません。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。
今回ご紹介するのは、2015年のBMJ Case Rep.誌に掲載された、小児の羽毛ふとん肺事例を紹介した論文です。

今日は日本でも報告の多いこの病気について、まとめておきたいと思います。

▼石原先生のブログはこちら

羽毛ふとん肺とは?

まず事例を紹介します。イギリスの事例です。

患者さんは12歳の男性で、ゆっくり進行する食思不振と体重減少、呼吸困難と空咳、胸部痛などの症状を訴えて受診しました。
病歴を聴取すると3年前にも同様の症状があり、数ヶ月で自然に改善していました。
呼吸機能は低下しており、軽度の運動で呼吸困難が生じる状態でした。

そのレントゲン写真がこちらです。

微妙な変化ですが、両肺の下方で血管の影が不明瞭となっており、これをすりガラス状陰影と呼んでいます。
CT検査ではその部位で、微小な粒状の陰影が認められました。

そこで気管支鏡検査など精査が行われました。

気管支鏡による肺生検の結果では、過敏性肺炎の所見を認めました。

過敏性肺炎というのは、アレルギー性の肺炎の一種で、原因となる抗原を繰り返し吸入することにより、Ⅲ型とⅣ型というタイプのアレルギー反応が起こり、それが気管支から肺の組織に炎症を起こすという病気です。
原因としては家屋のカビや細菌、キノコの胞子、ペットの鳥の排泄物、牧草の細菌や塗料の成分などが原因抗原として知られています。

そして今回その原因抗原であったのが羽毛ふとんの羽毛です。
患者さんの環境の聞き取りをしたところ、症状の出現した2010年と2013年の両時期において、患者の母親が羽毛布団を購入していました。

そこで羽毛関連の血液のIgG抗体を測定したところ、上昇が認められました。

入院中には徐々に症状は改善し、羽毛布団を廃棄するよう指示したところ、退院後も状態は安定していました。
これが鳥関連過敏性肺炎、そのうち羽毛布団が原因になっているものを、特に羽毛ふとん肺と呼んでいます。

羽毛ふとん肺は日本でも多い病気

多数の過敏性肺炎の原因になっている可能性も

実はこの羽毛ふとん肺は日本で報告が多い病気なのです。

過敏性肺炎の初めての全国調査が1991年に行われ、その結果では全体の7割が、トリコプポロンという日本家屋に多いカビの一種を抗原とする、夏型過敏性肺炎でした。

その結果をもって、「過敏性肺炎の7割は夏型過敏性肺炎で、その原因はトリコスポロンというカビです」という記載が専門家によってもしばしば行われています。

しかし…過敏性肺炎には急性と慢性に分けられ、1999年には多くの過敏性肺炎が慢性化することが示されています。
そして、慢性過敏性肺炎に限った2度目の全国調査が、今度は2013年に発表されています。
これは2000年から2009年に報告された222例が対象となっていますが、その結果は全体の6割を占める134例が、羽毛ふとん肺を含む鳥関連過敏性肺炎で、夏型過敏性肺炎はぐっと少ない33例、という1991年の調査とはかなり異なる内容になっています。

これを見ると、むしろ羽毛ふとん肺の方が、過敏性肺炎の原因としてはずっと多い可能性があるのです。

羽毛布団購入後の体調異変にはご注意を

羽毛ふとん肺は、上記の事例のように、家族の使用している羽毛布団からの発症事例もあり、自分が使っていない布団であっても、家の中に羽毛布団があれば否定は出来ません。

羽毛布団を購入してから生じるような咳や呼吸困難は、羽毛ふとん肺の可能性を、考えて検査を行う必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36