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2020.08.12

免疫チェックポイント阻害剤使用中の癌患者は、新型コロナにかかると重症化するのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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基礎疾患がある方が新型コロナウイルスに感染すると重症化するという話があります。
では、現在治療中の癌患者にも、そのリスクがあるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、Nature Medicine誌に2020年7月掲載されたレターですが、癌の患者さんで新型コロナウイルス感染が重症化する因子についての報告です。

▼石原先生のブログはこちら

癌患者が新型コロナウイルスに感染すると重症化するのか?

高血圧や糖尿病などの患者さんで、新型コロナウイルス感染症の重症化が多い、という報告は複数認められます。

しかし、癌の患者さんで、新型コロナウイルス感染症の重症化が多いかどうかについては、データによっても違いがあり、まだ明確は結論は得られていません。
これまでの報告で中国やイタリアにおいては、癌の患者さんの新型コロナウイルス感染症による死亡率は、そうでない場合より高いと報告されていますが、癌の患者さんと言っても、軽症から重症まで幅広く、どのような治療を受けているのかによっても、その免疫の状態などは大きく異なっているので、癌の患者さんを一括りにして論じることに、そもそも問題があるという気もします。

新型コロナウイルスに感染した癌患者を解析

今回の検証はアメリカの単独施設のもので、アメリカの癌センターにおいて癌の治療中に、有症状の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した、423名の解析を行っています。

感染者のうち40%は入院治療を行い、20%は急性呼吸窮迫症候群の状態となって、そのうちの9%は人工呼吸器を装着しています。
感染者の12%が発症30日以内に死亡しています。

この数字は世界的に一般住民の入院患者の死亡率と、ほぼ同等の数字となっています。
一方で癌患者の入院中死亡率のデータは、一般患者と同等のものと、より高いものとがあり、その違いは不明ですが、おそらくは患者の重症度やどんな治療をしているのかに、影響されている可能性が高いと考えられています。

免疫チェックポイント阻害剤による治療を行っていると重症度リスクがアップ

ここで急性呼吸窮迫症候群になるリスク因子を解析すると、年齢が65歳を超えると、それ以下より1.67倍(95%CI:1.07から2.60)、オブジーボのような免疫チェックポイント阻害剤による治療を、行なっていると行なっていないより2.74倍(95%CI:1.37から5.46)、それぞれ有意に重症化のリスクは増加していました。
一方で手術治療や通常の抗癌剤による化学療法治療群では、こうした重症化のリスク増加は認められませんでした。

免疫チェックポイント阻害剤は、癌細胞によって抑制されているT細胞機能を、活性化させるような働きがあり、非常に有用な薬剤である一方、免疫系の過剰反応による有害事象を、生じやすい事が指摘されています。

新型コロナウイルス感染症による肺病変の重症化も、免疫の過剰反応が関連しているという可能性が指摘されているので、そのためにリスクが増加している、という可能性が想定されます。

免疫チェックポイント阻害剤を使用中の方はご注意を

これはまだ単独施設の報告ですし、そのメカニズムも推測に過ぎませんが、免疫チェックポイント阻害剤を使用中の方は、より感染予防に留意するべきだ、ということは間違いがないように思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36