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2023.12.25

新たな治療法となるか?大動脈弁狭窄症に対する超音波治療【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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加齢などが原因で起こることが多い大動脈弁狭窄症の治療は外科手術が主流です。しかし、高齢の方でも身体に負担をかけずに治療できる可能性がでてきました。

今回ご紹介するのは、Lancet誌に2023年11月13日付で掲載された、大動脈弁狭窄症に対する非侵襲的超音波治療法の有効性についての論文です。(※1)

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高齢者にも適応できる大動脈弁狭窄症の治療とは

大動脈弁狭窄症は、心臓から全身に血液を送り出す、大動脈の入り口にある弁が石灰化などを来して硬くなり、弁の広がりが悪くなって、血液を効率的に送り出すことが出来なくなる病気です。

生まれつきの異常によって起こることもありますが、その多くは加齢や動脈硬化の進行に伴って起こるのです。初期は無症状で経過しますが、一旦胸の痛みや息切れなどの症状が出現するとその進行は早く、数年で命に関わる事態になることも稀ではありません。

大動脈弁狭窄症の治療は、手術で機能しなくなった弁を、人工弁や生体弁に取り換えるという外科治療が行われ、最近ではカテーテル治療により、人工弁を挿入するような方法も開発され施行されています。

ただ、大動脈弁狭窄症の患者さんには、高齢で内臓の機能も高度に低下していたり、他にも病気を併発しているような人が多く、比較的侵襲の少ないカテーテル治療でも、その適応にならない場合が少なくありません。

それでは、こうした治療の困難な高齢の患者さんでも、適応可能な治療法はないのでしょうか?

体外から強力な超音波を照射する非侵襲的超音波療法

その1つとして注目されているのが、今回の非侵襲的超音波療法です。

超音波は尿路結石の破砕などにも使用されていますから、大動脈弁の石灰化の除去には、一定の効果が期待出来そうです。

実際にそうした試みはこれまでにもあるようですが、そうした治療単独で手術などの治療に代わり得る、というほどの効果は確認されていませんでした。

今回のフランスのメーカーが開発したCardiowave(※2)というシステムは、身体の外から強力な超音波を大動脈弁に照射することにより、「硬い弁の組織を柔らかくする」と説明されています。

治療の選択肢の一つに

今回発表されたデータでは、フランス、オランダ、セルビアの3か所の専門病院において、重度で有症状の大動脈弁狭窄の患者さん40名に対して、この超音波治療が施行されています。

その結果平均の弁口面積は治療前から10%増加し、平均圧格差は平均41.9mmHgから38.8mmHgへと、7%有意に低下していました。

正直単独で大動脈弁狭窄症の治療の選択肢となり得る、というほどの結果ではないように思えますが、他の治療の施行が困難な患者さんに対しては、一定の有効性が期待される治療として、その選択肢の1つとはなり得る可能性があり、今後のより詳細な検証に期待したいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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