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2023.07.07

血圧のコントロールが認知症予防に効果あり!?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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適正な血圧にコントロールすることは健康の要。そして、どうやら血圧コントロールと認知症の間にも密接な関係があるようです。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2023年5月19日ウェブ掲載された、厳格に血圧をコントロールすることの、認知機能に与える影響についての論文です。(※1)

これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、有名なSPRINT試験(※2)のデータを活用したものです。

▼石原先生のブログはこちら

血圧をコントロールすれば認知症は予防できるのか

認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、世界中で研究は進められていながら、認知症そのものを治療するような治療法の開発は、まだ道半ばという感じがあります。

そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、認知症の予防です。

認知症はある日突然起こるような病気ではなく、10年以上の期間を掛けて進行する病気です。最初は全く症状がないうちに、異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、それから軽度認知障害(MCI)という、認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。そこからまた数年以上を掛けて、認知症への進行するのが一般的な経過なのです。

それでは、まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、軽度認知障害の段階で、その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?

動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。それが事実とすれば、心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、厳格にコントロールすることにより、認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?

心血管疾患リスクは、血圧を厳しくコントロールすることで下げられる

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、収縮期血圧が130mmHg以上で、年齢は50歳以上。慢性腎障害や心血管疾患の既往、年齢が75歳以上など、今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、トータル9361名の患者さんを登録し、くじ引きで2群に分けると、一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、もう一方は120未満にすることを目標として、数年間の経過観察を行ない、その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、両群で比較するというものです。

平均観察期間は5年間とされていました。

しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。これは開始後1年の時点で、既に統計的に明確な差が現れ、かつ血圧を強く低下させることにより、腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、それ以上の継続の意義がない、と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、強化コントロール群は、140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、25%有意に低下していたのです。(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

このSPRINT試験の延長として、より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証され、その結果は2019年のJAMA誌に発表されています。(※3)

SPRINT試験の観察期間のみでは、認知症の進行を見るには短すぎるので、試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、トータルで6年近い経過観察を施行しています。

その結果、観察期間中に認知症と診断されるリスクは、通常降圧群と比較して厳格降圧群では、17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、それぞれ有意に低下していました。

このように、より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、それは軽度認知障害以前の状態において、より有効であるようです。

血圧のコントロールは認知症予防にも有効

今回の検証は同じSPRINT試験の二次解析ですが、試験に登録の時点で認知症の可能性があるか、軽度認知障害を持っている患者さんに限定して解析をしたところ、全体の解析よりも、厳密な血圧コントロールの認知症予防効果が、より明確に示された、という結果になっています。

SPRINT試験の解析はこのように沢山の種類があり、その範囲においては、厳格な血圧コントロールを行った方が、認知症の予防にも繋がるという結果はかなり明確ですが、今後はSPRINT試験に匹敵するような別個の臨床データにおいて、同様の結果が得られるかどうかが問題であるという気がします。

今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36