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2019.05.15

卵などのコレステロールの摂り過ぎは身体に悪いのか【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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栄養豊富で、栄養価の優等生ともいわれる卵。でも食べ過ぎるとあまり健康には良くないようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のJAMA誌に掲載された、コレステロールや卵の摂取量と動脈硬化の病気との、関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

卵を食べると血中コレステロールが増えてしまう?

コレステロールや卵と健康との関連については、色々な見方があります。

卵黄には1個に200ミリグラムを超えるコレステロールが含まれています。

血液のコレステロールが高いと、動脈硬化が進行しやすいという知見が得られてから、食事のコレステロールを制限しようという動きが、世界的に高まり、そこで提唱された基準が、食事のコレステロールを1日300ミリグラム以下にする、というものです。

これを達成するためには、卵をなるべく食べないことが、必要不可欠ですから、卵の制限が、健康のためには必要であると考えられたのです。

食事でコレステロールを制限しても、血中コレステロールには関係ないという説も

ところが2016年に公表されたアメリカのガイドラインにおいては、食事のコレステロールを制限しても、血液のコレステロールを減らせるという根拠は乏しいとして、その目標値は削除されました。

これは、「コレステロールの食事制限は不要」として、一般にも報道されました。
その報道には誤解を招く点があり、実際には数値目標が外れただけで、コレステロールの制限自体は推奨されていたのですが、コレステロールに制限は要らない、という誤ったメッセージに受け取られたことは、残念でした。

ポイントは血液のコレステロール濃度を指標とした時、食事のコレステロールを制限したり卵を制限しても、明確なコレステロールの降下作用は確認出来ない、ということです。

従って、コレステロールの摂取が多いと、それだけ心血管疾患のリスクが高まるかどうかは、疫学データにおいても相反する結果があり、明確にどちらと言い切れる事項ではないのです。

大規模疫学データでコレステロール摂取量と死亡リスク等の関連を検証

コレステロールを余計に摂ると、病気や死亡のリスクがアップ

今回の研究はアメリカの6つの大規模疫学データを、まとめて解析したもので、29615名の一般住民を中央値で17.5年の経過観察を行っています。

その結果、コレステロール以外の心血管疾患のリスク因子を補正して解析したところ、1日に300ミリグラムのコレステロールを余計に摂ることにより、心血管疾患のリスクは17%(95%CI:1.09から1.26)、総死亡のリスクは18%(95%CI: 1.10から1.26)、それぞれ有意に増加していました。
ここにおける心血管疾患とは虚血性心疾患と脳卒中、心不全、そしてそれ以外を含む心血管疾患による死亡を併せたものです。

また、卵を1日半個余計に摂ることにより、心血管疾患のリスクは6%(95%CI: 1.03か1.10)、総死亡のリスクは8%(95%CI: 1.04から1.11)、こちらも有意に増加していました。

この卵による心血管疾患リスクの増加は、コレステロールの摂取量で補正すると有意ではなくなることから、卵によるリスク増加は、含まれるコレステロール量によるものと想定されました。

卵は適切な量を心がけた方がよさそう

このように今回の大規模な検証においては、コレステロールや卵の摂取量が多いと、それが明確に血中コレステロールの増加に反映はされなくても、心血管疾患のリスクの増加や生命予後の悪化に影響する可能性が高く、心血管疾患の予防のためには、一定の食事のコレステロール制限は、必要と考えておいた方が良いようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36