メニュー

2023.06.12

40代から始めよう!科学的根拠に基づいた最新の認知症予防とは?

kencom公式ライター:村岡祐菜

認知症は予防できる病気という認識が広がってきています。認知症のリスク要因は年齢によって異なり、自分の年代に合わせた認知症の予防対策をすることが大切だと考えられています。

今回お話を伺ったのは、鳥取大学医学部で教授をされている浦上克哉先生です。年代別のリスク因子や具体的な予防対策について解説していただきました。

浦上克哉(うらかみ・かつや)先生

記事画像

日本認知症予防学会代表理事・鳥取大学医学部教授
1983年に鳥取大学医学部医学科を卒業・同大大学院博士課程修了後、同大の脳神経内科に勤務。2001年4月に同大保健学科生体制御学講座環境保健学分野の教授に就任。2022年4月より鳥取大学医学部認知症予防学講座教授に就任。2011年に日本認知症予防学会を設立、初代理事長に就任し現在に至る。著書に『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』(PHP新書)『すぐに忘れてしまう自分が怖くなったら読む本 認知症を予防・克服する新習慣!』(徳間書店)がある。

認知症のリスク要因は年齢によって変わる

記事画像

認知症は発症しやすい人と発症しにくい人がいて、リスク要因は年代によって変わると言われています。すべてのリスク要因が明らかになっているわけではありませんが、現時点で明らかになっているリスク要因は、全体の約40%です。

『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』(PHP新書)より抜粋/Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission:The Lancet Journal 

『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』(PHP新書)より抜粋/Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission:The Lancet Journal 

中年期と高齢期で注意するべき観点が異なります。認知症の予防や対策を考えるうえでは、まず自分にどのようなリスク要因があるのかを知っておくことが大切です。

若年期(45歳未満)

45歳未満の年代では、教育歴が認知症の発症に最も大きく関与すると考えられています。過去の教育歴が、中年期から高齢期の知的好奇心に影響を及ぼすためです。過去の教育歴を今から変えることはできませんが、意識して新しいことに挑戦したり、学習に取り組むことが重要です。

中年期(45〜65歳)

45歳以降のリスク要因のうち、最も大きいものが難聴です。聴力が低下することで人との会話が難しくなり、会話の頻度が減ることで頭を使う機会が減ってしまうためと考えられています。認知症予防の観点からは、聴力が下がり始めた初期のうちから補聴器を使い始め、できる限り今まで通りの生活を送れるようにすることが大切です。

肥満や高血圧もリスク因子に含まれます。生活習慣病の予防を行うことが、認知症予防にもつながるでしょう。

高齢期(66歳以上)

高齢期に入ると、リスク因子はさらに増えます。喫煙・抑うつ・社会的孤立・運動不足など、若年・中年期には見られなかった因子が認知症発症に大きな影響を与えるようになると考えられているのです。

規則正しい生活に加え、年代に合わせた予防対策を

認知症を発症する主なメカニズムは、脳に特殊なタンパク質が溜まることで、脳の神経細胞が少しずつダメージを負って弱り、最終的には死んでしまうことです。つまり、認知症の発症を予防するためには、脳にタンパク質を溜めないような生活習慣を身につけることが大切なのです。

朝食を食べよう

記事画像

朝はきちんと起きて朝食を食べること。働き盛りの年代では仕事があるため朝に起きている方が多いことかと思いますが、高齢者の場合は昼まで寝てしまう方もいることでしょう。また、仕事をしている方は朝の準備でバタバタして、朝食を抜いてしまう方もいるかもしれません。ただ、朝起きて朝食を食べることは、認知症予防の観点で考えると大切な生活習慣です。

質の良い睡眠をとろう

記事画像

睡眠も認知症を予防するうえで気をつけたいポイントです。アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβタンパク質は、寝ている間に脳内から除去されることが知られています。睡眠時間が短かったり、睡眠の質が悪かったりする方は、脳内からタンパク質が除去されきれずに残ってしまいます。1日あたりの蓄積量はわずかでも、毎日続くと徐々にタンパク質が溜まっていってしまうため、注意が必要です。

コミュニケーションを取ろう

記事画像

多くの人とコミュニケーションをとることも、脳に刺激を与えると言われています。日中に仕事をしていない高齢者の方は特に、積極的に人と話すよう意識することが大切です。仕事をしている方であっても、近年リモートワークが進んだことで、人と話す機会は減ってしまったのではないでしょうか。いつも同じ人と一緒にいるのではなく、いろいろな人と関わって会話することが、脳にとっては大切です。

高齢期の有酸素運動は注意が必要

一般的に“健康によい”とされている生活習慣は、ほとんどの場合認知症の予防にも役立ちます。ただ、なかには年代によって注意が必要な生活習慣もあるため、注意が必要です。

たとえば運動は、年代によって気をつけるべきポイントが異なります。中年期の場合は、肥満が認知症のリスク因子になります。ただ高齢期になると、痩せすぎが認知症のリスク因子になってしまうのです。

脂肪を減らすうえではウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が役立ちますが、有酸素運動をやりすぎると筋肉も減少してしまいます。中年期に肥満予防で有酸素運動を積極的にやっていた方は、年齢を重ねるにあたって筋力トレーニングを取り入れるといった工夫が必要になります。

認知症を予防するためには、一般的に"健康によい”とされている生活習慣を整えることに加えて、年代に合わせた対策も取り入れることが大切です。

認知症予防におすすめしたい2つの方法

認知症の予防におすすめしたい具体的な方法を2つ紹介します。すぐに実践できる動画も用意しているので、ぜひ試してみてくださいね。

地域を超えて広がりを見せる『とっとり式認知症予防プログラム』

とっとり式認知症予防プログラムとは、MCIの方が認知症を発症するのを予防する目的や、認知症の進行を少しでも遅らせる目的で開発したプログラムです。このプログラムは、鳥取県琴浦町で実施された認知症予防の取り組みが成果を出したことがきっかけで開発されました。

とっとり式認知症予防プログラムの基本は、有酸素運動と筋力トレーニングです。準備運動を10分ほど行った後に、足踏みや椅子を使ったスクワットなどを行います。詳しいやり方は動画で解説しているので、ぜひ動画を見ながらやってみてください。

脳を活性化して疲れを取るアロマセラピー

記事画像

意外に思われる方も多いかもしれませんが、MCIの方が認知症を予防するうえで特におすすめしたいのがアロマセラピーです。実は認知症の発症においては、認知機能が低下するよりも先に、嗅覚機能が低下することが明らかになっています。これは、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβタンパク質が、認知障害の初期から鼻の神経にも溜まっているためです。

アロマセラピーは日本の医療現場では馴染みのないものですが、フランスでは保険適用となっていて、200年もの歴史がある治療方法のひとつです。

認知症の予防に役立つ香りは、昼用と夜用に各1種類です。昼用がローズマリー・カンファーとレモンを2:1で配合したもの、夜用が真正ラベンダーとスイートオレンジを2:1で配合したものです。昼用の香りが脳を活性化させ、夜用の香りが脳の疲れをとる効果があります。

アロマオイルを購入する際は、天然のものを選ぶよう心がけてください。化学合成されたアロマオイルは自然界に存在しない異物のため、長年嗅いでいると体に悪影響を与えてしまう可能性があるためです。昼間はペンダント、夜は芳香器を活用して、いつでも香りを嗅げるようにしておくことをおすすめします。

認知症の予防に向けて今から対策を始めよう

働き盛りの年代にとって、認知症を自分ごととして捉えるのはなかなか難しいかもしれません。ただ、認知症は一度発症してしまうと後戻りができない病気。早いうちから予防対策をしておくことで、将来の認知症リスクを減らすことにつながります。記事で紹介した予防法を、ぜひ取り入れられそうなものから始めてみてください。

先生の著書『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』では、MCIや認知症予防について、さらに詳しく解説されています。気になった方は、ぜひ先生の著書も読んでみてくださいね。

■今回のお話を伺った浦上克哉先生の著書

『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』浦上克哉・著 PHP新書

『もしかして認知症? 軽度認知障害ならまだ引き返せる』浦上克哉・著 PHP新書

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

村岡祐菜(むらおか・ゆうな)
薬剤師・フリーライター
千葉大学薬学部薬学科卒業後、薬局薬剤師として約4年間勤務後、ライターとして独立。現在は不定期で薬局薬剤師として現場に入りつつ、医療関連のコラム制作や取材記事の制作に関わる。専門知識を一般の方にもわかりやすく伝える文章を書くのが得意。

制作

監修:浦上克哉
取材・文:村岡祐菜

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード