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2022.11.17

毎日の歩数と認知症リスクの関係は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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さまざまな病気リスクを低下させてくれる「歩き」。どうやら認知症予防にも効果があるようです。

今回ご紹介するのは、JAMA Neurology誌に2022年9月6日掲載された、毎日の歩数と認知症リスクについての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

健康に有効な歩き方とは

健康のためにはよく歩くのが良い、というのは、健康の専門家かそうでないかに関わらず、多くの人が言っていることです。最近では携帯電話だけでなく、スマートウォッチウェアラブル端末が普及したことで、簡単に毎日の歩数が計れるようになり、よりその健康効果が一般に広まりを見せています。

そこで問題となるのは目標とするべき歩数です。

馴染みのあるのが「1日1万歩を歩きましょう」という基準で、皆さんも何度もお聞きになったことがあると思います。海外たとえばアメリカにおいても同様の基準がポピュラーで、意外にもその元になっているのは、日本の万歩計の会社の宣伝にあったようです。

ただ、実際にはその根拠は、あまり精度の高い研究に裏付けられたものではありません。

最近の研究結果は2019年に海外で発表されたものでも(※2)、日本の中之条研究の報告においても(※3)、もう少し少ない1日7000から8000歩程度が、最も健康への有効性が高い、という結果になっています。

更に最近指摘されることが多いのが歩行の速度で、日本の研究では20分程度の「早歩き」を入れると、より効果が高いというデータが得られていました。

より新しい2021年9月に発表されたアメリカの疫学データでは、中年期に1日7000歩から10000歩の歩行を習慣化することで、その後の超過死亡のリスクが低下する、という内容になっていました。(※4)

ただ、他の病気と比較して、認知症のリスクと歩数との関連については、認知症の予防ガイドラインにおいて歩行などの運動習慣の重要性が、記載されてはいるものの、どのくらいの歩数や歩行速度が、認知症の予防に有効であるのかという点については、これまでにあまり精度の高いデータが存在していませんでした。

認知症と歩数には関係があるのか

今回のデータはイギリスの、最近言及されることの多いUKバイオバンクのデータを元に解析されたもので、登録時点で40から79歳の一般住民78430名を、中間値で6.9年経過観察し、認知症の発症リスクと歩数との関連を検証しています。

その結果、観察期間中に866名が認知症を発症していて、発症年齢の平均値は68.3歳でした。

毎日の歩数と認知症との関連を検証したところ、歩数と認知症リスクとの間には明確な関係が認められ、最もリスクが低下していたのは、1日の歩数が9826歩の時で、歩行習慣がないと仮定した場合と比較して、認知症発症リスクは51%(95%CI:0.39から0.62)、有意に低下していました。

明確に有効性が期待出来る下限は、1日の歩数が3826歩の時で、認知症発症リスクは25%(95%CI:0.67から0.83)、有意に低下していました。
今回のデータでは、歩数が9826歩を超えると、歩数が多いほどリスクは上昇に転じていました。

歩行速度との関連でみると、1分に40歩未満のぶらぶら歩き程度のゆっくりした歩行では、1日の歩数が3677歩の時が最も認知症リスクは低く、42%(95%CI:0.44から0.72)の低下となっていました。

一方で1分に40歩以上の通常の歩行で解析すると、1日の歩数が6315歩の時が最も認知症リスクは低く、57%(95%CI:0.44から0.72)の低下となっていました。30分の計測で最も早かった歩行スピードと、認知症リスクとの関連をみてみると、1分に112歩というかなり速足の時点で、認知症リスクは62%(95%CI:0.24から0.60)と最も低くなっていました。

このように、概ね1万歩は越えないくらいの歩行を継続することが、最も認知症リスクを低下させるには有効で、早歩きやジョギングを組み合わせることは、その有効性を高める可能性が示唆されました。

歩行習慣は認知症予防にも効果あり

ただ、このデータは認知症の解析をするには年齢が若く、若年発症の認知症に、偏った解析となっている可能性があります。

1万歩を超えるような歩行はむしろリスクを増加させる、というデータになっていますが、実際には1万歩を超える歩行習慣のある人は少なく、正確な傾向を反映していない可能性もあります。

従って、高齢者の認知症の予防という点を考えるには、もう少し高い年齢層での、同様の解析結果を待つ必要がありそうですが、6000歩から1万歩くらいまでの歩行習慣は、通常の内臓疾患のみならず、認知症の予防においても、一定の有効性はあると、そう考えて大きな問題はなさそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生

1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36