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2024.01.19

中性脂肪は認知症のリスクをさげる?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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中性脂肪は生活習慣病のリスクの一因とされていますが、ある一定の人にとって認知症の予防効果があるかもしれないというデータ分析があります。

今回ご紹介するのは、Neurology誌に2023年10月25日付で掲載された、血液中の中性脂肪と認知症との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

中性脂肪の高値は様々な疾患のリスク増加につながる

コレステロールや中性脂肪などの血液中の脂質が高いことが、血管の動脈硬化を進行させる要因となり、心筋梗塞などの病気の再発リスクが、コレステロールを低下させる治療により低減することは、多くの臨床データにより確認された事実です。

認知症の多くも動脈硬化の進行と関連があり、その意味ではコレステロールや中性脂肪などの脂質が低い方が、そのリスクの低下にも繋がると想定されます。

ところが…実際には高齢者のコレステロールのレベルと認知症リスクとは、明確な関係はないとする報告(※2)や、むしろ血液中のコレステロールは高めである方が、認知症のリスクは低いとする報告(※3)などがあります。

これは中年くらいまでの時期の高コレステロール血症は、動脈硬化を進行させてその後の認知症のリスクになるものの、高齢者の高コレステロール血症は、むしろ認知症に予防的に働く可能性を示唆している、と考えることが出来ます。

中性脂肪に関しても、その高値は動脈硬化の進行に繋がる可能性がありますが、血液中の中性脂肪濃度と認知症リスクとの関連は、それほど明確なことが分かっていません。

認知症・心血管疾患の既往歴がない人のデータでを分析

そこで今回の研究では、アスピリンの有効性を検証した臨床研究より、登録の時点で65歳以上で、認知症や心血管疾患の既往のない、18294名の臨床データと、遺伝情報を含む大規模な医療データを有している、UKバイオバンクのデータより、68200名の臨床データを活用することで、血液中の中性脂肪の濃度と、その後の認知症のリスクとの関連を比較検証しています。

その結果、アスピリンの臨床研究のデータ解析では、血液中の中性脂肪が高いほど、認知症リスクは低いという相関が認められ、中性脂肪値が倍になると、リスクは18%(95%CI:0.72から0.94)有意に低下していました。そして、UKバイオバンクデータ解析でも、矢張り同様の相関が認められました。

つまり、コレステロールと同様に中性脂肪においても、高齢になった段階では、その数値が高いほど、認知症のリスクは低いという結果です。ただ、今回のデータでは、中性脂肪の数値はその90%は186mg/dL以下で、一般に問題となる200を超えるような中性脂肪高値の人は、全体の極少数に留まっています。

従って、中性脂肪が高ければ高いほど良い、ということではなく、正常値かそれより少し高めの方が、高齢になった時には認知症の予後にも良い、というくらいで考えるのが妥当だと思います。

程よく保つことが認知症予防になる可能性

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コレステロールも中性脂肪も、脂質のレベルは中年期まではしっかり下げることが、将来的な病気の予防に繋がるのですが、65歳くらいの年齢以降においては、むしろ栄養状態を良く保ち、脂質も減らし過ぎない方が、トータルな予後の改善に繋がると、そう考えるのが良いように思います。

ただ、勿論これは心筋梗塞や脳卒中の既往はない人の話で、そうした病気の既往のある場合には、また別個の判断が必要となる点は、最後に強調しておきたいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者/監修医プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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