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2019.03.06

血圧を下げると、認知症も予防できる?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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未だ有効な治療法が開発されていない認知症。できることなら発症を予防したいものですよね。
当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

本日ご紹介するのは、2019年のJAMA誌に掲載された、厳格な降圧治療による認知症発症予防効果を検証した論文です。(※1)
これは厳格な血圧コントロールの有効性を検証した、有名なSPRINT試験(※2)のデータを活用したものです。

▼石原先生のブログはこちら

認知症の進行を予防することはできるのか?

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認知症は高齢化社会における最も深刻な健康上の問題ですが、世界中で研究は進められていながら、認知症そのものを治療するような治療法の開発は、あまり進捗が見られていません。
アメリカのFDAが認可した認知症の治療薬は、2003年以降存在していません。15年以上足踏み状態が続いているのです。

そこでもう1つの認知症対策の柱となるのが、認知症の予防です。

認知症はある日突然起こるような病気ではなく、10年以上の期間を掛けて進行する病気です。
最初は全く症状がないうちに、異常タンパクの蓄積などの脳の変化が起こり、それから軽度認知障害(MCI)という、認知機能の一部のみが低下した状態が出現します。
そこからまた数年以上を掛けて、認知症への進行するのが一般的な経過なのです。

それでは、まだ、異常タンパクの沈着が始まったくらいの段階や、軽度認知障害の段階で、その後の進行を予防することは出来ないのでしょうか?

高血圧をコントロールすれば認知症の進行も回避できる?

収縮期血圧を140未満と120未満の2群に分けてコントロールし、リスクを比較

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動脈硬化と関連のある心血管疾患のリスクと、認知症のリスクとの間には関連のあることが分かっています。

それが事実とすれば、心血管疾患の代表的なリスク因子である高血圧を、厳格にコントロールすることにより、認知症の進行も予防出来るのではないでしょうか?

有名なSPRINTと呼ばれるアメリカの臨床試験があります。

これはアメリカの102の専門施設において、収縮期血圧が130mmHg以上で、年齢は50歳以上。慢性腎障害や心血管疾患の既往、年齢が75歳以上など、今後の心血管疾患のリスクが高いと想定される、トータル9361名の患者さんを登録し、くじ引きで2群に分けると一方は収縮期血圧を140未満にすることを目標とし、もう一方は120未満にすることを目標として、数年間の経過観察を行ない、その間の心筋梗塞などの急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管疾患のよる死亡のリスクを、両群で比較するというものです。

収縮期血圧120未満の群は死亡リスクが25%低下

平均観察期間は5年間とされていました。しかし、平均観察期間3.26年の時点で終了となりました。
これは開始後1年の時点で、既に統計的に明確な差が現れ、かつ血圧を強く低下させることにより、腎機能の低下にも明確な差が現れたことで、それ以上の継続の意義がない、と考えられたからです。

その結果は当初の予想を上回るものでした。

収縮期血圧120未満を目標とした、強化コントロール群は、140未満を目標とする通常コントロール群と比較して、トータルな心血管疾患とそれによる死亡のリスクが、25%有意に低下していたのです。(Hazard Ratio 0.75 : 95%CI 0.64-0.89)

降圧治療の認知症予防効果を6年間観察

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このSPRINT試験の延長として、より厳密な降圧治療の認知症予防効果を検証しているのが、今回の研究です。

SPRINT試験の観察期間のみでは、認知症の進行を見るには短すぎるので、試験終了後も3年近いコホート研究としての観察期間を設定し、トータルで6年近い経過観察を施行しています。

その結果、観察期間中に認知症と診断されるリスクは、通常降圧群と比較して厳格降圧群では、17%低下する傾向を示したものの有意ではありませんでした。(95%CI: 0.67から1.04)

ただ、軽度認知障害の発症リスクは、厳格治療群で19%(95%CI: 0.69から0.95)、軽度認知障害と認知症を併せたリスクも、厳格治療群で15%(95%CI: 0.74から0.97)、それぞれ有意に低下していました。

軽度認知障害以前なら、血圧コントロールが認知症を予防できるかも

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このように、より厳格な血圧コントロールを行なうことにより、一定レベル認知症の発症を予防出来る可能性がありますが、それは軽度認知障害以前の状態において、より有効であるようです。

ただ、今回のデータでは、観察期間中のコントロール状態は後半は一定ではなく、有害事象のチェックも不充分ですから、これをもって即座に厳格な血圧コントロールが、認知症予防に有効とは言えません。

今後の知見の蓄積に期待をしたいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36