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2023.03.31

頭痛や腰痛の痛み止めとして、抗うつ剤が効く?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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鎮痛剤として一般的に使われているのはアセトアミノフェンやイブプロフェンなどですが、近年それらに代わってSSRI、SNRIなどの抗うつ剤を使う例が増えてきたのだとか。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2023年2月1日ウェブ掲載された、抗うつ剤の慢性疼痛への有効性を再検証した論文です。

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痛み止めとして抗うつ剤は有効なのか

腰痛や頭痛など身体を苦しめる痛みの多くは、原因を特定することが出来ない慢性疼痛(とうつう:痛みのこと)です。

こうした痛みは従来、アセトアミノフェンや、非ステロイド系消炎鎮痛剤などの、いわゆる痛み止めで治療することが多かったのですが、近年鎮痛剤の臓器障害などの有害事象や、依存性などが問題となるようになり、それに代わって使用頻度が増しているのが、三環系抗うつ剤やSSRI、SNRIなどの抗うつ剤です。

慢性疼痛では中枢での痛みへの感受性の亢進があり、それが痛みを強く感じさせている、という側面があります。

抗うつ剤には脳内ホルモンを調整して、その感受性の亢進を抑制し、痛みを緩和させる働きがあると想定されているのです。ただ、慢性疼痛と一括りに言っても、その内容は千差万別ですが、その性質に関わらず抗うつ剤は、やや漫然と使用されているという側面があります。

実際に慢性疼痛に対する抗うつ剤の有効性は、どの程度実証されているものなのでしょうか?

8系統の抗うつ剤を用い、疼痛への有効性を検証

今回の研究は、この分野におけるこれまでの主だった臨床データを、俯瞰的に検証するシステマティックレビューの解析という手法で、この問題の再検証を行っているものです。

これまでの156の個別の臨床研究に含まれる、25000人以上の患者データに基づいて、26のシステマティックレビューが発表されています。そこにおいては、8種類の系統の抗うつ剤の、22種類の慢性疼痛に対する有効性が、42種類の偽薬との比較において検証されています。

このうち11種類の比較試験において、抗うつ剤の疼痛への有効性が示されていて、そのうちの4試験は中等度の信頼性のあるデータです。これはいずれもSNRIによるもので、腰痛、術後疼痛、神経障害性疼痛、線維筋痛症に対する有効性です。

それ以外の31種類の比較試験では、5種類で有効性は確認されず、26種類では有効性は明確なものとは言えませんでした。

有効性が認められたのは一部のみ

このように、これまでに多くの臨床試験が施行されていますが、精度の高い臨床試験で有効性が確認された研究は、それほど多くある訳ではなく、一部の疼痛に対する、1系統の抗うつ剤(SNRI)以外の有効性は、明確になっているとは言えません。

従って、現状のデータに基づいて考える上では、慢性疼痛への抗うつ剤の使用は、原則SNRI(商品名でイフェクサー、サインバルタ、トレドミンなど)に限って、その有害事象にも留意しつつ慎重に行うことが、適切と考える必要がありそうです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36