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2021.11.26

女性に多いと言われる甲状腺がん、実際の罹患率の性差は?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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男性が罹りやすい病気、女性が罹りやすい病気と、罹患率に性差がある病気はいくつかあります。女性に多いと言われる「甲状腺がん」も、その一つになるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に、2021年8月30日ウェブ掲載された、甲状腺がんの性差についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

女性に多いと言われる甲状腺がん

「甲状腺がん」は男性より女性に多い癌として知られています。ただ、その罹患率については報告によりかなりの差があり、その性差の原因もあまり明確ではありません。

今回の研究はアメリカの疫学データの詳細な解析と、解剖所見で偶発的に発見される甲状腺がんの頻度のメタ解析を併せて、この問題の多角的な検証を行なっているものです。

その結果、確かに甲状腺がんの診断が急増した2013年には、女性の罹患率が人口10万人当たり22.4件であったのに対して、男性の罹患率は7.8件で、これは明確な性差が存在しています。

女性に甲状腺がんが多く見つかるのは、検査機会が多いから?

ただ、2013年から2017年の間において、明確な性差があるのは大きさが2センチ以下の乳頭癌のみで、4.39対1で女性に多くなっていました。

その一方で死亡リスクの高い甲状腺がんには明確な性差がなく、甲状腺がんの死亡率も1.02対1と殆ど性差なく1992年から2017年までほぼ一定していました。さらには解剖所見で発見された、臨床的には診断されなかった甲状腺乳頭がんの罹患率には、明確な性差が認められませんでした。

このように、甲状腺がんが女性で多く発見され診断されるのは、女性に多く発症するためではなく、小さい甲状腺がんを超音波検査で発見する機会が、男性より女性で多いためと想定されます。

バセドウ病や橋本病などの甲状腺の病気は、こちらは間違いなく女性に多いので甲状腺の検査をする機会も多く、それが甲状腺がんの性差に、繋がっているのではないでしょうか?

実は罹患率に性差はない可能性も

性差のある病気は多くありますが、その中には性ホルモンのバランスなど、明確な原因があって生じるものもある一方、実際には罹患率には性差はないのに、他の要因で一見性差があるように見えているものもあるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36