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2020.02.05

乳製品の摂取は健康にいいのか、悪いのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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健康のため毎日牛乳を飲んでいるという方もいれば、コレステロールが高いから乳製品は避けているという方もいます。医学的に見て、乳製品は健康にいい食品なのでしょうか?

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、乳製品の摂取量と生命予後との関係についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

乳製品は健康にいい食品か?

乳製品の健康への影響という問題については、これまでに相反するデータがあり、まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、リンやビタミンDも含んでいるため、骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、最近の疫学データにおいては、乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、その摂取によりコレステロールが増加した、というようなデータもあります。このため心血管疾患の予防という観点からは、現行のガイドラインにおいて、その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、有意ではないものの低下する傾向を示しました。(※2)

乳製品の摂取量と死亡等のリスクを長期にわたり研究

生乳は摂り過ぎると死亡や病気のリスクが優位に増加

今回の研究はアメリカの医療従事者を対象とした、3つの大規模な疫学データを、まとめて解析することにより、登録時に心血管疾患や癌のない168153名の女性と、49602名の男性を、30年余という長期間観察したものです。

その結果、最も乳製品の量が少ない(平均して牛乳1日80ml程度)群と比較して、1日平均280mlまでのグループでは、乳製品の摂取量と総死亡のリスクとの間に、明確な関連は認められませんでした。
ただ、最も乳製品の摂取量が多い(平均して牛乳1日420ml)群は、最も少ない群と比較して、総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.04から1.10)有意に増加していました。
ただ、個別のリスクでみると、心血管疾患による死亡リスクも、癌による死亡リスクも、有意な差はありませんでした。

ここで乳製品の種類を分けて検討すると、生乳は最も死亡リスクが高く、その摂取が50ml増えるにつれ、総死亡のリスクが11%(95%CI: 1.09から1.14)、心血管疾患による死亡リスクが9%(95%CI:1.03から1.15)、癌による死亡リスクが11%(95%CI: 1.06から1.17)、それぞれ有意に増加していました。

乳製品をほかの食品に置き換えるとどうなるか?

ここで乳製品をナッツや豆類、全粒穀物に同カロリーで置き換えると、死亡リスクは低下する一方、赤身肉や加工肉に置き換えると、死亡リスクはより増加する結果になりました。

要するに、乳製品を多く摂ることは、僅かながら生命予後に悪影響を与えていて、その影響は牛乳で1日500mlくらいで明確になります。
特に乳製品の中でもリスクが高いのは生乳で、チーズやヨーグルトでは明確なリスクの増加は確認されません。
そして、脂質と蛋白源として、生乳をナッツや豆類に置き換えるとリスクは低下する一方、赤身肉や加工肉は、より悪影響を与える食品であることも確認されました。

乳製品はほどほどにとどめるのが無難

大人になったら乳製品は、なるべくヨーグルトやチーズを利用して、牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めることが、健康面では妥当な考え方であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36