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2022.02.25

初めに笑いありき【笑トピ・#8】

明治大学名誉教授・日本笑い学会:山口政信

何事によらず名前が付くとそれらしくなるものです。

子どもの名前をあれこれと考えるのは、「名は体を表す」というネーミング効果に期待を寄せる親心です。何らかの肩書がつくとそれにふさわしい風格が備わってくるのも、この効用があるからでしょう。

その一方で、病気であることを知り、病名を知った途端に病人らしくなってしまった、という話も耳にします。まさに落ち込んだという状態ですが、そこには「知らぬが仏」を貫き通したかったという、人の心裏が読み取れます。

元気でなければ医者通いもままならないのですから、心配も能天気も程ほどに、ということですね。

では、「笑い学」という名称はどうでしょう。科学は名前の通り分ける学問として進化し、その細分化に乗じて「笑い学」「笑学」などとお好みの「学」がつけられるようになりました。乗じてなどとは穏やかではありませんが、誇張による一瞬の緊張とその緩和で〈笑い脳〉を刺激してみた訳です。

今や日本笑い学会をはじめ、○○笑学校とか△△笑学部など、大小さまざまな組織が誕生し、笑いを笑励する時代を迎えています。笑い学は生真面目ではなく不真面目でもない森政弘氏の発想を前面に、社会を下支えしつつもその多様性を牽引していると言ってもよいと思います。

笑いは人類の誕生とともにあり!

実は古代ギリシャのプラトンやアリストテレスの時代から、笑いは哲学の領した「万学の祖」とされる後者の「人間だけが笑う動物である」とする見解は、今もチンパンジーなどを対象として研究が続けられています。

これは猿学が人間学を位置づけるために大切な研究分野であることを示しています。いずれにしても、アリストテレスはユーモア学/笑い学の祖である、と言っても間違いなさそうです。

しかし、ここでちょっと考えてみてください。何か変だとは思いませんか。学問があったから笑いがあったのでしょうか。いえいえ、もともと人には笑いがあり、その価値が認められたからこそ哲学のなかに位置づけられた、と考えるのが順当です。

笑いは人類の誕生とともにあったはずです。笑いの歴史は危険や苦難に立ち向かってきた人間の歴史に寄り添ってきた訳です。

笑って死にたいとは万人の願いですが、それは笑いが人の生老病死と不可分であることを意味しています。泣いて生まれてくる赤ちゃんへの期待は、口角を上げたエンジェルスマイルに代わるように、笑いは一生ものなのです。

箸を横にくわえると口角が上がり、笑筋が動いたことが分かります。そして「ハハハ」と笑ってみると顔全体の表情筋が大きく動きます。笑う習慣がない人の口角は下がり、口が「へ」の字に見えます。ひょっとしたら笑筋/表情筋の廃用性委縮の兆しなのかもしれません。

笑いに加え、口の中で舌を自在に動かすことを習慣づけると、オーラルケアだけではなく表情豊かでハッピーなクオリティオブライフが創造できるものと思われます。

著者プロフィール

■山口 政信(やまぐち・まさのぶ)
明治大学名誉教授
1946年生まれ。東京教育大学体育学部卒業・東京学芸大学大学院教育学研究科修了。日本笑い学会理事、日本ことわざ文化学会理事(事務局長)、スポーツ言語学会初代会長。全国中学校放送陸上競技大会80mハードル優勝(中学新)、日本陸上競技選手権大会/メキシコ五輪最終選考会400mハードル6位、フルマラソン完走121回。「創作ことわざ」に「わざ言語」の機能を見出し、体育・スポーツ教育を実践。学生には「体育を国語でやる先生」と呼ばれる。明治大学リバティアカデミーに「笑い笑われまた笑う」を開講し、笑ってもらうことをモットーとした。主著に『スポーツに言葉を』(単著)があるほか、『陸上競技(トラック)』・『笑いと創造第四集』(以上共著)、『笑いとことわざ』(共編著)、『世界ことわざ比較辞典』(共監修)など多数。

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