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2018.12.19

香りでストレスが癒される?医学博士に聞くアロマセラピー基本のき

KenCoM公式:ライター・石松アミ

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仕事納めに忘年会、クリスマスや新年の準備……と、一年の内でもっとも多忙なこれからのシーズン。そんなときこそ、手軽にできるセルフケアとして取り入れたいのが「アロマセラピー」。
女性好みの趣味とあなどることなかれ、実は香りには驚きの癒し効果があるのです。
そこで、まずは香りというものが、私たちにどのように作用しているのかを、星薬科大学特任教授の塩田清二先生にお伺いします。

塩田清二(しおた・せいじ)先生

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星薬科大学 生命科学先導研究センター ペプチド創薬研究室 特任教授、中国ハルピン医科大学客員教授。
1974年に早稲田大学教育学部生物学研究科卒業後、新潟大学大学院理学研究科修士課程修了、昭和大学医学部第一解剖学講座にて医学博士号取得。米国チューレン大学客員教授などを経て、現職に至る。日本アロマセラピー学会前理事長、日本統合医療学会副理事長、日本糖尿病・肥満動物学会常務理事などをつとめる。専門は神経ペプチドを中心とした神経科学。

医療分野でも注目されている「香り」の効果

日常的に体験している、香りの作用

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「トレッキングやハイキングに出かけて、森林で木々の香りをかぐとリフレッシュする」、「淹れたてのコーヒーの香りで癒される」。反対に「不快なにおいを感じると吐き気をもよおす」など、私たちは嗅覚によって”身体や心がなんらかの反応をする”という体験を日常的にしています。

この作用を治療やヘルス&メンタルケアに応用するのがアロマセラピーです。日本ではまだまだリラクゼーションのひとつというイメージがありますが、フランスやベルギー、ドイツでは長らく医療行為として認知されています。

また歴史をひもとけば、古代ギリシア医学やインド医学(アーユルヴェーダ)、中国医学も根本は同じで、すでに紀元前から人類は植物や植物の芳香成分を治療や予防医学に用いてきました。
近年、香りが人体に作用するメカニズムの解明と、客観的な変化を測定できる機器の進歩によって、心身に与える様々な影響の化学的根拠が次々と明らかになっています。

アロマセラピー発祥の地フランスでは、医療として研究・発展

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アロマセラピーとは「aroma(芳香)」と「therapy(療法)」を合わせた造語で、植物から抽出した芳香成分の精油を用いて、心身のケアを行うことを意味します。
これはフランスの科学者モーリス・ガットフォセによって体系化されました。

もともとガットフォセは、フランス・リヨンで香料会社を経営していました。
1915年に実験室で起きた爆発事故によって手に火傷を負いますが、これが精油の医療的活用、つまりアロマセラピーの研究にのめり込むきっかけとなります。
ラベンダー精油が伝承医療として傷の治療に使われていることを知っていた彼は、火傷した手を精油に浸してみました。すると火傷の治りが早まったのです。当時でも精油は非常に希少でしたが、香料会社のオーナーだったため、身近に手を浸せるほど大量の精油がありました。
この経験から、精油には創傷治癒の力があると考え、研究をスタートさせたのです。

ガットフォセに続いて、アロマセラピーを学術レベルまで引き上げたのが、フランスの軍医ジャン・バルネです。
インドシナ戦争に従軍した際、医薬品が不足していたため、精油による代替補完療法で多くの傷病兵を治療しました。
こうした経験と、その後の効果・効能の検証と研究の成果をもとに、1964年『ジャン・バルネ博士の植物=芳香療法』を出版します。
ヨーロッパの一部の国では、精油が医薬品として認められていて、風邪などの初期症状の予防に活用されているのにはこうした歴史的背景が関係しているのです。

香りが脳に作用するメカニズムを解説

脳にスピーディーに届き、働きかける香り

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香りのもととは、空気中に漂っている目に見えないほど小さな揮発性の分子。これを鼻腔から吸い込むと、鼻の奥にあるにおいを感知するセンサー(嗅覚受容体)と結合し、嗅細胞を刺激して電気信号を発信します。この電気信号が脳内に伝わり、においの感覚が生じます。
電気信号で伝わる速度が特徴で香りの情報は、スピーディーに脳へ届けられます。

香りは自律神経やホルモン分泌、感情にも作用

嗅覚系には、大きく二つの神経回路があります。
ひとつは、におい分子をキャッチした瞬間、パッと情報が大脳皮質に伝わり、瞬時ににおいを認知する即時的な神経回路。
これは五感の中でもっとも早い伝達プロセスで、生命維持に直結します。
例えば私たちは、腐敗したり有害物質を含む食べ物を、においによってある程度判断できます。「異臭=食べない」という瞬時の判断で、危険を回避しているのです。

もうひとつは、におい分子を受容すると、まず脳の内側の扁桃体から視床下部を通り、大脳皮質に伝わるルート。扁桃体は情動や記憶に関係し、視床下部は自律神経やホルモン、免疫系などをコントロールします。

「ある特定の香りをかぐと、かつての恋人を思い出して切なくなる」といった話は、よくあることでしょう。
これは大脳皮質に伝わったのち、脳のあちこちに格納されていた香りの情報が、におい刺激によって過去の出来事と結びつき、引き出されるからです。
それと同時に、扁桃体の働きである情動反応が作動し、切なくなったり懐かしくなったりするのです。

このような多様な嗅覚の伝達経路によって、香りの情報は情動や記憶、さらに自律神経やホルモン分泌、免疫系などの働きを司る脳の様々な分野に届けられていきます。
つまり、広範囲かつダイレクトに脳に届く香りには、脳内で起こっていることが原因の疾患や不調を改善する力が期待できるのです。

アロマセラピーが予防医学のひとつに!?

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西洋医学は、患部を治すことを得意とします。一方で、におい、特に植物の芳香成分を利用するメディカルアロマセラピーは、現代西洋医学では解決できない分野を補完・代替し、また未病の観点からも理想的な医療として、今後ますます注目されていくことでしょう。

次回は、生活に手軽に取り入れられる、セルフメディケーションとしてのアロマセラピーの活用法を紹介します。

※アロマセラピーは医療行為ではありません。身体の不調を感じていたら医療機関を受診しましょう

参考文献

〈香り〉はなぜ脳に効くのか アロマテラピーと先端医療(塩田清二)

著者プロフィール

■石松アミ(いしまつ・あみ)
大学在学時からライターをはじめ、女性誌や美容専門誌を中心に執筆。15年以上のキャリアを持ち、雑誌・ムック・広告・ウェブ媒体など幅広く活躍中。また、アメリカへの留学経験を活かし、国内外のアンダーグラウンドカルチャーについての執筆・翻訳も手がける。第一子をアーユルヴェーダや鍼灸、漢方医療などを取り入れた助産院で出産したことをきっかけに、代替医療に興味を持つようになる。

(取材・文/石松アミ)

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