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2021.04.20

新型コロナの抗体と予防期間について【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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一度罹るともう二度と罹ることのない「麻疹(はしか)」のような病気もありますが、新型コロナウイルス感染症は再感染もあり得るのだそう。新型コロナの抗体はどれくらいの期間予防効果を持つのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Internal Medicine誌に2021年2月24日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスの抗体測定と、遺伝子検査との関連についての論文です。ほぼほぼ分かっていることを、なぞっている内容なのですが、アメリカの検査機関の大規模データを活用して、実臨床での関連を調べている点が特徴です。

▼石原先生のブログはこちら

新型コロナの検査方法とは?

新型コロナウイルス感染症の確定診断の検査のスタンダードは、間違いなくRT-PCR検査に代表される遺伝子検査ですが、症状が改善して治ったと臨床的には考えられても、長期間検査は陽性となることがあります。

つまり、治ったかどうかの判断には使いにくいということと、確実に治ったと示せる検査がない、と言う点が臨床上の問題です。

抗体検査は、感染に伴って身体が防衛のために作り出す抗体を測定するもので、これが陽性であれば感染の最中を含めて過去に感染のあったことを示し、陰性であれば感染の初期を除けば、最近の感染はないということを示しています。

その意味では、住民に幅広く抗体検査を行ない、どのくらいの頻度で感染が起こっているのかを推測したり、まず抗体を測定して陽性であった人のみ遺伝子検査を行なうことで、効率良く感染者を見つけ出せるのでは、というような試みが行われました。

抗体はどれくらいの期間有効なのか

しかし…人間の身体は新型コロナウイルスの感染に対して、多くの異なる抗体を産生しているので、測定のための検査も、必ずしも同じ方法で同じ抗体を測定している、という訳ではありません。

一応スパイクという突起の部分に対応する抗体が、一番重要ではないかと考えられていて、その部分の抗体を測定する検査が大多数ですが、それでも検査による違いがありますし、場合によってはスパイクの場所に変異のあるウイルスでは、測定されないケースも考えられます。

特定の抗体が感染後いつから血液中に現れ、いつまで有効かと言うこともまだ分かっていません。

たとえば麻疹(はしか)のような病気では、基本的に一度罹ると一生のうちに二度罹ることはなく、罹ったかどうは、血液の抗体を測れば判明するので、大人の場合抗体が陰性の人だけワクチンを接種すれば良い、ということになり、至ってシンプルなのですが、新型コロナウイルスにおいて同じようなことが言えるかどうかは、まだ分かっていません。

感染すると少なくとも数か月は抗体が陽性になり、その間は再感染はし難い状態になるということはほぼ分かっていますが、どのくらいの期間罹らないのか、と言った具体的なことは、まだはっきりしていないのが実際なのです。

2割の患者の抗体が3ヵ月で無効に

今回の研究はアメリカの臨床検査機関における抗体検査のデータを、薬局や医療機関の医療データと結び付けることにより、抗体の陰性、陽性と、遺伝子検査で確認される感染との関連を、比較検証しています。

抗体検査を行なった3257478名の患者データを解析したところ、88.3%に当たる2876773名が陰性で、11.6%に当たる378606名が陽性でした。

抗体が陰性の患者は、陽性の患者より年齢は高い傾向が見られました。

抗体価が陽性であった患者のうち、90日間以上の経過観察中に、18.4%は抗体が陰性化していました。抗体陽性者において、測定後0から30日の間で遺伝子検査が陽性となるリスクは、陰性者の2.85倍(95%CI:2.73から2.97)と、有意に高くなっていました。

これが31日~60日では、陽性者は陰性者より33%(95%CI:0.6~0.74)、61日~90日では71%(95%CI:0.24~0.35)、90日以上では90%(95%CI:0.05~0.19)、それぞれ有意に遺伝子検査の陽性リスクは低下していました。

これは要するに、抗体陽性から30日以内の検査では、もう治っていても遺伝子検査は陽性となるケースがあり、そのためにリスクが増加している可能性が高いのですが、それ以降は感染後で抗体が陽性になった人の再感染の予防効果を見ているものと思われます。

つまり、90日以降も抗体は8割以上の患者さんでは保たれていて、その予防効果も持続していると言うことが出来ます。ただ、逆に言うと3か月程度の期間でも、2割近い患者さんは抗体が陰性化していて、そうした患者さんでは再感染も起こり得るということになります。

抗体測定にも指針を

このように抗体測定には一定の意義があるのですが、まだその測定系も統一はされておらず、今後その検査法を含めて、より明確な指針が作成されることを期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36