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2020.03.26

新型コロナウイルスのPCR検査、採取部位によって陽性率は異なるのか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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新型コロナウイルスのPCR検査は、咽喉や鼻腔、痰などさまざまな個所の検体で行われています。検体の箇所によって検査結果に差はでるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2020年3月11日にウェブ掲載されたレターですが、中国の複数の病院で様々な部位から採取された検体による、PCR検査の陽性率を比較したものです。

▼石原先生のブログはこちら

検体を摂取する部位で検査結果に差がでるのか?

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PCR検査でウイルス遺伝子が増幅され検出されれば、少なくとも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、感染があること自体は確認出来ます。
しかし、不顕性感染があり、持続的にウイルスが検出されるような事例の報告もある以上、検査が陽性であるからと言って、その人が病気であるとは言えません。

また、検査が陰性であっても、それは新型コロナウイルスの感染が否定された、ということにはなりません。
病気があっても検査の陽性率は、検体を採取した部位やウイルス量などによって、大きく左右されてしまうからです。

先日クルーズ船の不顕性の感染者を受け入れた、病院の医師の話を聞く機会がありましたが、日本では多くの場合咽頭から検体を採取して、PCR検査を行っていたのに対して、オーストラリアやアメリカでは、鼻腔からの検体採取がスタンダードになっていて、鼻腔からの採取でないと陰性でもそうだと認めてくれないので困った、というようなお話をしていました。

それでは、採取部位によってどの程度陽性率には差があるのでしょうか?

部位によってPCR検査の陽性率に差があるかを調査

気管支肺胞洗浄液では93%、血液では1%の陽性率

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今回の研究は中国の3箇所の病院において、臨床診断と遺伝子検査によって、新型コロナウイルス感染症と診断された205名の患者の、部位を変えた1070の検体のPCR検査陽性率を検証したものです。

各患者さんにおいて、いずれかの検査では陽性になっている訳ですが、感染が確認されている患者でも、採取部位を変えると陰性となってしまうことがある訳です。

その結果、最も陽性率が高かったのは、気管支鏡検査で採取される気管支肺胞洗浄液で、15検体中13件、93%で陽性となっています。
その次が痰の検体で、こちらは104検体中75件で陽性で72%の陽性率です。

通常検査されることの多い、咽頭もしくは鼻腔の検体では、咽頭が398検体中陽性は126件に満たず、何と陽性率は32%という低率でした。
鼻腔の検体は8検体中5件で陽性で、数は少ないのですが陽性率は63%です。

血液サンプルは307検体検査されましたが、1%に当たる3件のみ陽性でした。
興味深いのは便の検体で、こちらは153検体中44件が陽性で、陽性率は29%でした。

咽頭や鼻腔の検体では診断能はそれほど高くない

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このように通常は鼻腔や咽頭の検査で、PCRが陽性であったとかなかったとかと判断され、それで陰性であれば感染はない、というように言われていますが、実際には同じ患者さんの検査でも、鼻腔は陽性であるけれど、咽頭は陰性ということもあり、喀痰では陽性であるけれど、鼻腔も咽頭も陰性ということが、決して珍しいことではないのです。

新型コロナウイルスは下気道で増殖することが典型的で、それは遺伝子からACE2受容体をターゲットとすることが分かっているので、理屈にも合っている訳です。
そのため痰や気管支鏡検査で採取された洗浄液を検体とすれば、PCR検査の陽性率は最も高くなるのですが、咽頭や鼻腔の検体を使用している限り、その診断能は決して高くはないということを、その特徴として良く理解しておく必要があります。

それでは全例で下気道の検体を採取すれば良いではないかと、言われる方があるかも知れませんが、そうした手技は医療従事者の感染リスクを格段に高め、特別の防御策を講じる必要があるのです。簡単にその適応を増やすべきではありません。

PCR検査よりCTを撮るほうが肺炎を見つけやすいという説も

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少し前に中国から、PCR検査よりCTによる肺野病変の方が、より新型コロナウイルス感染症の診断能が高い、という報告があり、「そんな訳がないだろう」と第一観としては思ったのですが、今回のデータを読み、特徴的な新型コロナウイルス肺炎のCT画像を多く見ると、満更妄言とも言えない、ということが分かります。

これも実際に新型コロナウイルス肺炎の診療を行なっている、医師の方から聞いた話ですが、全くの無症状であっても、CT上では微細な肺炎像が診断される事例が結構あり、この病気を疑えば適切なタイミングでCTを撮って、微細な肺炎像が確認された事例のみを、病気として診断するという考え方は、1つの正論ではないか、という気もします。

感染がトイレから広がる可能性も高い

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もう1つ今回のデータで興味深い点は、便でのウイルスの陽性率が非常に高いことで、従来もこうした報告は数例のものはありましたが、今回150件を超える検体検査で、3割近いウイルス検出率をみたことは、この病気の性質上非常に重要な知見で、集団感染はトイレから広がるというケースが、多い可能性があることを示していると思います。

トイレ後の手洗いと、トイレの衛生管理が、極めて重要である可能性が高いのです。

PCR検査が陰性でも、感染していないわけではない

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PCR検査を増やせと言われる方は、仮にこの検査を100倍に増やせば、診断される患者さんの数も増える一方で、実際は感染しているのに検査で陰性とされたために、その患者さんが大手を振って周囲に感染を広げ、感染が拡大するリスクも格段に増えるということも、是非理解の上発発言をして頂きたいと思います。

咽頭や鼻腔のPCR検査が陰性であるということは、感染していない、ということとは全くの別物なのです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36