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2020.03.11

新型コロナウイルスにはどれくらい接触感染のリスクがあるか【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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マスク不足が深刻な問題となっている新型コロナウイルスですが、飛沫感染だけではなく、ドアノブや家具などを触れることで生じる接触感染にも気をつける必要があります。接触感染はどれくらい起こるものでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2020年3月4日ウェブ掲載された、新型コロナウイルスの周辺への汚染と、感染リスクについてのレターです。

▼石原先生のブログはこちら

家具などに付着したウイルスでも感染は生じるのか?

新型コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染と接触感染が主なものとして想定されていますが、ウイルスを含む飛沫などが付着した、部屋の壁や家具などに、触れることによって生じる接触感染については、あまり正確なことが分かっていません。

そこで今回の研究ではシンガポールにおいて、クリーンルームに隔離されて治療を受けている、新型コロナウイルス感染症の3人の患者を対象として、空気のサンプルや病室の26カ所の表面サンプルを複数回採取して、ウイルス遺伝子をPCRで検出しています。

3名の患者はいずれも症状はありましたが、2名は咳に発熱を伴う状態で、残りの1名は咳のみの症状で発熱はない状態でした。
発熱のある2名は病室のクリーニング後に、軽症の1例ではクリーニング前に検体採取が行われました。

その結果、発熱のある2例のクリーニング後の検体では、全てウイルス遺伝子は陰性でしたが、発熱のない軽症事例のクリーニング前の検体では、部屋の15カ所のうち87%に当たる13カ所で、トイレの5カ所のうち60%に当たる3カ所で、ウイルス遺伝子が検出されました。

便からウイルスが拡散するケースも

ウイルスが部屋から検出された患者では、下痢などの症状はなかったにも関わらず、便のサンプルからはウイルス遺伝子が検出されました。
便器とシンクからウイルスは検出されていて、このことは気道からの検体以外に、便を介したウイルスの付着の可能性も、否定出来ないと考察されています。

このように、適切に消毒などの処置を行えば、接触感染のリスクは低下させることが可能である一方、今回の検出事例のように、発熱もないような軽症であっても、ウイルスを周辺には拡散していて、下痢がなくても便から感染が拡大する、という可能性も否定出来ません。

どうやらウイルスを周辺にまき散らすという性質と、病気としての重症度とは、常に一致しているということではなさそうです。

症状が軽くても感染拡大させる力があるので要注意

今回の新型コロナウイルス感染症は、8割は軽症である一方、潜伏期が長く、経過自体も長く、症状の軽い患者さんでも、周辺に感染を拡大するリスクが高い、という点が、真に厄介なポイントであるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36