メニュー

2020.05.27

ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの併用は心疾患リスクが高い?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

記事画像

新型コロナウイルス感染症に効果があると期待されている薬はいろいろあります。しかしまだ研究途中のため、治療にリスクを伴うこともあるようです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA Cardiology誌に2020年5月1日ウェブ掲載された、フランスやアメリカで比較的多く使用されている、2種類の内服薬を併用する新型コロナウイルス感染症の治療が、心臓に与える影響についての論文です。

これはこの治療のリスクを検証したもので、この治療の効果を検証したものではありません。
上記論文の著者らは、この治療自体もあまり評価はしていないようです。

▼石原先生のブログはこちら

世界的にも新型コロナへの有効性が期待されているヒドロキシクロロキン

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、多くの薬剤が試みられていますが、その中でも世界的にその有効性が期待され、一定の臨床データも存在しているのが、リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、マラリアに有効性がある一方、心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、失明に結び付くこともある目の有害事象があり、その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、マラリアの診療に使用されると共に、関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、というように判断されています。

アジスロマイシンを併用するとコロナウイルス治療に効果がある?

クロロキンが膠原病に効果があるのは、免疫系の活性化を抑えて、免疫を調整するような作用と、ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、併用されることがあるのは、アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、同様の結果は再現されていません。

この治療を推奨しているフランスの研究者は、今度はこの併用治療を受けた、1061名の新型コロナウイルス感染症の患者さんにおいて、10日以内に91.7%で症状の改善が認められた、というデータを公表しています。
ただ、論文化は少なくとも英語ではされていないようです。
また、このデータはコントロールなどはなく、ただ、治療を受けていた患者を後から調べると、9割は改善していた、というだけのものなので、それが治療の効果であるのかどうかは、正直何とも言えないと思います。

ただ、この結果がアメリカのニュースで取り上げられて、大騒ぎというような感じを見ていると、メディアに踊らされるのは、日本に限った話ではないようです。

その有効性はともかくとして、ヒドロキシクロロキンもアジスロマイシンも、共に心臓に作用して、QT延長という心電図の異常を伴うことが指摘されています。
そして、QT延長は、重症の不整脈の発生に結び付き易いと考えられているのです。

実際にその影響はどの程度のものなのでしょうか?

心臓に作用して心電図の異常を伴う危険も

今回の研究はアメリカはボストンの単独施設において、PCR検査と画像診断で新型コロナウイルス肺炎と診断され、少なくとも1日以上ヒドロキシクロロキンが処方された、トータル90名の患者さんにおいて、アジスロマイシンとの併用と心電図変化との関連について検証しています。
90名中53名ではアジスロマイシンが併用されていました。

ヒドロキシクロロキン単独の使用では、明確な使用後の補正QT時間の延長は認められませんでしたが、アジスロマイシンとの併用では、中央値で23ms(0-40)と比較的明確なQT時間の延長が認められました。

ヒドロキシクロロキン単独では、19%に当たる7名が、補正QT時間が明確な異常値と言える500msを超えていました。
そのうちの3名ではQT時間が60ms以上大きく増加していました。
アジスロマイシンとの併用群では、21%に当たる53名中11名で補正QT時間は500msを超えていて、13%に当たる7名で60ms以上の増加が認められていました。
補正QT時間が異常に延長するリスクは、治療前の補正QT時間が450ms以上であると7.11倍(95%CI;1.75から28.87)、ループ利尿剤を使用していると3.38倍(95%CI: 1.03から11.08)、それぞれ有意に増加していました。
また、1例の患者さんが経過中に心停止を来していました。

併用には注意が必要

このように、ヒドロクロロキンとアジスロマイシンとの併用は、QT延長のリスクが高く、治療前のQT時間が長めであったり、利尿剤を使用しているような患者さんでは、その使用にはより慎重な判断が、必要であるように考えられます。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36