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2020.04.08

大量にキャベツを食べるとアセトアミノフェンの効果が低下する?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ある種の食べものによって薬が効きにくくなるという話は時々ありますが、よく食卓にのぼるキャベツにもその可能性があるのだとか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、1983年のClin. Pharmacol. Ther.誌に掲載された、キャベツと芽キャベツを沢山食べることの、薬の代謝に対する影響についての論文です。

古い文献ですが、検索した範囲において、人間で検証されたデータのまとまったものは、これ以外はあまり見つかりませんでした。

▼石原先生のブログはこちら

キャベツを食べると薬が効かなくなる?

キャベツには薬物を排出する「グルクロン酸」が含まれる

食事の豆知識的なところに、キャベツを一緒に食べると風邪薬や頭痛薬が効かなくなる、というような内容が時々書いてあります。

そうしたことがあるとして、実際にどの程度の量のキャベツを食べると、どの程度の影響があるのでしょうか?

その肝心な点が、そうしたネット記事などには書かれていません。

中には、「キャベツを食べると風邪薬は全く効かない」などと、明らかに誇大な表現が、何ら根拠など示すことなく書かれているものもあります。

キャベツや芽キャベツには、幾つかの興味深い点があります。

その1つはヨードの吸収を阻害するような成分が含まれていることで、このため、ヨードの欠乏地域においては、キャベツによる甲状腺機能低下症が、生じる可能性があります。

そして、もう1つがグルクロン酸という成分を、キャベツが多く含んでいるということです。

グルクロン酸は人間においては、肝臓の解毒作用の中心的な物質の1つで、肝細胞に薬物などの異物が取り込まれると、それがグルクロン酸に囲まれるようにして結合し、胆汁から腸に排泄されると、そのまま便となって身体の外に出て行きます。これをグルクロン酸抱合と呼んでいます。
グルクロン酸は非常に水に溶けやすい性質があるので、水に溶けにくい薬物などを、水に溶けやすくして排泄するという仕組みなのです。

グルクロン酸が解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンを排出してしまう?

さて、肝臓で代謝される多くの薬が、グルクロン酸抱合を受けて排泄されますが、その代表的な薬の1つがアセトアミノフェンです。

アセトアミノフェンは安全性の高い解熱鎮痛剤として、お子さんの解熱剤から風邪薬の成分、高用量では癌を含む全身の疼痛の緩和などの使用されています。

このアセトアミノフェンをグルクロン酸を多く含む食品と一緒に摂ると、アセトアミノフェンがグルクロン酸抱合されて、そのまま排泄されてしまい、その効果が減弱する可能性が想定されます。

キャベツを大量に食べた場合の、アセトアミノフェンの代謝を比較

今回ご紹介する論文では、健康な被験者10名(男性)に、通常の食事とキャベツを芽キャベツを増やした食事を食べさせ、10日間食べたところでアセトアミノフェンを内服させてその代謝を比較しています。

強化食では昼と夕に、それぞれ芽キャベツ150グラムとキャベツ100グラムが、添加されています。

その結果、キャベツと芽キャベツを強化した食事を摂取すると、その翌日空腹時に内服したアセトアミノフェンの代謝において、薬物濃度の時間的指標であるAUCは16%低下し、その排泄率は17%増加していました。
薬の内服後尿中へのグルコサミン抱合されたアセトアミノフェンの排泄は、11時間に渡って増加が認められ、排泄量は平均で8%増加していました。

キャベツと芽キャベツでトータル250グラムという量は、キャベツ4分の1玉くらいに相当します。

キャベツを意識的に多く摂るダイエットを行なえば、このくらいの量は摂取して不思議ではありません。
この程度の量のキャベツを毎日摂取すると、アセトアミノフェンの効果は、最大で2割程度低下する可能性がある、ということになります。

キャベツの大量摂取を続けると、薬の効果が下がる可能性が高い

従って、付け合わせ程度のキャベツが、薬の効果に大きな影響を与えることはありませんが、それを超えて意識的にキャベツを沢山食べることを続けると、アセトアミノフェンのみならず、グルクロン酸抱合を受けて排泄する薬の効果が、一定レベル低下する可能性があると、そう考えて大きな間違いはないようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36