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2022.10.20

心血管疾患リスクを高める「ゼロカロリーの人工甘味料」【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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ゼロカロリーをうたうダイエット飲料は多々ありますが、実際に痩せるのか、健康にいいのかと問われると疑問が残ります。

今回ご紹介するのは、British Medical Journal誌に、2022年9月7日ウェブ掲載された、人工甘味料の健康影響についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

人工甘味料は健康にいい?

ゼロカロリーのダイエット飲料の、身体への影響については様々な意見があります。その一部は以前何度か記事にもしましたし、本にも書きました。

高価な砂糖の代用として開発された、サッカリンがその始まりで、その後アミノ酸の一種であるアスパルテームや、スクラロースなど、多くの「代用砂糖」が開発されました。

これはそもそもは高価な砂糖の代用品として、商品価格を下げることが目的で、サッカリンと言えば安かろう悪かろうという、どちらかと言えば悪いイメージしかなかったのですがカロリーのないことを逆手に取って、ダイエット目的や健康に良いというイメージで、急速に普及することになったのです。

サッカリンには発癌性の危惧があって、今でも使用はされていますが、その後開発されたアスパルテームやスクラロースの方が、今では主に使用されています。普及しているダイエットコーラでも、使用されているのはアスパルテームやスクラロースが主です。

砂糖の入っているコーラを飲んでいた人が、それを人工甘味料の入ったダイエットコーラに変えれば、摂取カロリーは減り、特に肥満の方や糖尿病の傾向のあるような方では、より健康にメリットがあるように、普通に考えればそう思えます。

体重が増加して糖尿病の発症リスクが高まることも

しかし、人工甘味料の使用により、体重が減少して血糖コントロールにも良い影響が見られた、という臨床データがある一方で、むしろ体重が増加して糖尿病の発症リスクも増加した、というような相反するデータも得られています。

以前ご紹介したように、人工甘味料が舌の甘味受容体に結合することにより、身体が反応してインスリンを分泌し、それが空腹感を増強するため、結果として過食が誘発されるのでは、という仮説があります。

またサッカリンにより腸内細菌叢が変化し、耐糖能異常が生じる可能性を示した、動物実験の結果も報告されています。

人工甘味料と心血管疾患の発症リスクの関連を調査

今回のデータはフランスにおける疫学研究で、103388名の一般住民を中間値で9年の経過観察を行い、人工甘味料の摂取量と、心血管疾患の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、人工甘味料を摂取しない人と比較して、平均以上に摂取している人では、心血管疾患のリスクが9%(95%CI:1.01から1.18)、有意に増加していました。特に脳梗塞などの脳血管疾患のリスクは、18%(95%CI:1.06から1.31)と高い増加率を示していました。

また、人工甘味料の個別の解析では、アスパルテームが脳血管疾患リスクを17%(95%CI:1.03から1.33)、アセスルファムカリウムが冠動脈疾患リスクを40%(95%CI:1.06から1.84)、スクラロースが冠動脈疾患リスクを31%(95%CI:1.00から1.71)、それぞれ有意に増加させていました。

人工甘味料の摂取は慎重に

つまり、それほど明確なものではなく、信頼区間がかなり広い点には注意が必要ですが、人工甘味料の摂取そのものか、それに付随するような食習慣が、一定レベル心血管疾患のリスクを高める可能性のあることは、留意する必要がありそうです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36