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2018.12.06

一過性脳虚血発作が起こったら【スピード勝負の脳梗塞対策②】

KenCoM公式:ライター・緒方りえ

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みなさんはTIA(一過性脳虚血発作)という言葉を聞いたことがありますか?これは脳の血管の流れが悪くなって虚血状態になった時に起こる、一過性の脳梗塞症状です。シリーズ第2回目は、少し難しい内容になってしまいますが「TIA」の説明を中心に、脳梗塞についてご説明したいと思います。前回に引き続き東京済生会中央病院の星野晴彦先生にお話を伺ってきました。

脳梗塞とTIAの違いとは?

TIAを起こすということはどこかの血管がすでに細くなっていることが多く、再度つまった時には本物の脳梗塞を起こすリスクが非常に高い状態です。「中枢神経系(つまり脳)または網膜に一過性の局所症状が出て24時間以内に消失する」、これが一般的なTIAの定義です。つまりTIAとは崖っぷちに立っているのと同じような状態といえます。

①TIAは本格的な脳梗塞の一歩手前

一般的に「脳の血流が完全に止まると、5分間で脳組織が死ぬ」と言われていますが、逆に考えると「5分以内に脳の血流が戻ると脳組織は無事の可能性が高く、症状が出たとしても消えてしまう」とも言えます。

つまり、病気の発生の仕方としては脳梗塞と一緒なのですが、TIAの方が軽く済んだというだけのこと。
そして、TIAが起こった後はすぐに治療が必要です。TIAから90日以内にも約20%の人に脳卒中の危険があり(※)、しかも そのうちの半数の人がTIAから48時間以内に脳梗塞を起こすというデータがあるのです。

②どんな症状がでるのか

症状としては特集1回目で説明した脳卒中のチェック「FAST」と同じで、どの部位にダメージがあったかによって変わってきます。FAST以外にもTIA症状の1つとして網膜の血流障害による「一過性黒内障」があります。これは片目が急に見えなくなって、すぐに見えるようになるのが特徴。目は脳に行く血管の最初の枝ですので、脳に行く血管の本幹に何か起こっている可能性があり要注意です。

■前回の記事はこちら

③症状はどれくらいの時間続くのか

時間としては5分から10分くらいで症状が治まることが多いでしょう。1秒2秒で治まることはほぼ無くて、あまりにも短い時間の症状は別の病気の可能性もあります。1〜2時間など、長く続く場合には脳組織の一部が死んでしまうこともあります。症状が軽快していてもMRIなどで調べてみたら実は脳梗塞を起こした部分が見つかるかもしれません。

となると、TIAの定義は非常にややこしくなってきます。元々は完全に組織が死なないという概念で始まっていますが、医療の進歩によって、TIAだけど実は脳梗塞を起こしていたとわかる場合もあるのです。
アメリカでは、それは脳梗塞にしましょうという定義も出てきています。しかし、今の日本の定義では症状が24時間で消えているかどうかで判断し、MRIなどの画像で脳梗塞があったとしてもTIAとしています。

④必ず脳梗塞前にTIAが起こるのか

勘違いしている方もいらっしゃるかもしれませんが、脳梗塞の前に必ずTIAが起こるわけではありません。多くの人はTIAという前兆がないまま、突然に脳梗塞を経験しています。
どのくらいTIAが先行して起こるのかというデータはあまりないのですが、2005年のNeurology(研究者や臨床医を対象にした専門誌)に掲載されたデータでは、脳梗塞患者の20%ほどに前兆があったと発表されています。しかし、おそらくもっと少ないでしょう。

⑤TIAや脳梗塞を起こさないためには

まず脳梗塞は大きく分けて、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症の3つに分類されます。

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脳血栓症(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞)は脳の動脈硬化が原因で、やはり一番関係があるのは高血圧です。高血圧以外に血管を傷めて動脈硬化を起こすような危険因子としては、糖尿病、脂質異常、タバコなどの生活習慣病が大きく関わっています。
これらの生活習慣を改善して脳梗塞を予防することが非常に大切です。

また、心原性脳塞栓症は主に、心房細動という不整脈が原因で起こります。不整脈の治療も行いましょう。

⑥もしも症状が現れたら、とにかく救急車!

TIAでも脳梗塞でも、とにかく1分でも早く病院までたどり着くことが大切です。脳梗塞の場合、発症して4時間半以内であればt-PA(血栓溶解剤)という薬を使うことができます。病院に到着してから検査時間などもありますので、発症から3時間半以内には病院にたどり着いておくことが理想です。

また、ステントという道具を使った血管内治療ができることもあります。これは血栓を直接回収し、大きな脳梗塞を回避する治療です。治療開始が早かった場合、症状が劇的に改善して歩いて帰れる人もいます。この治療に関しては、海外では発症から6時間以内、日本では発症から8時間以内に効能があるとされていますが、今年発表されたデータでは24時間以内でも効果があった人もいるそうです。
時間が経ってしまったと諦めず、とにかく病院にたどり着くようにしましょう。もちろん脳出血だった場合も、早く治療を開始することによって予後が変わってきます。

悩んでいる暇はない!おかしいなと思ったら

TIAを発症した人は非常に運が良くて、その段階で治療を開始できれば本格的な脳梗塞を起こさなくて済む可能性が高いと言えます。身体の異変がすぐに治ったとしても「ちょっと横になって休めばいいや」という行動は命取りです。とにかく一度、病院へ行ってみましょう。
次回は、脳梗塞の治療についてご説明します。

■脳梗塞の他の記事はこちらから

星野晴彦(ほしの・はるひこ)先生

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1959年生まれ。1983年慶應義塾大学医学部卒業後、東京都済生会中央病院内科研修医として勤務。その後、専修医、医員。1989年米国クリーブランドクリニック神経内科、英国国立神経病院、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校神経内科およびアルツハイマー研究所で臨床研修。帰国後、東京都済生会中央病院神経内科副医長、神経内科医長。05年慶應義塾大学医学部神経内科講師、07年慶應義塾大学医学部神経内科・脳血管障害予防医学講座特別研究准教授、11年より東京都済生会中央病院内科部長・神経内科部長・脳卒中センター長。2018年より東京都済生会中央病院副院長。神経内科専門医、総合内科専門医、脳卒中学会専門医、頭痛専門医。専門領域は脳血管障害。2013年より公益社団法人日本脳卒中協会東京都支部長として、市民向け脳卒中の知識・予防セミナーを開催。

著者プロフィール

■緒方りえ(おがた・りえ)
1984年群馬県生まれ。20代から看護師として活動をする傍ら、学会への論文寄稿や記事の作成なども行う。2015年独立しフリーの編集者として活動。2017年より合同会社ワリトを設立し代表社員に就任。医療系を中心に、旅行、雑貨など幅広いジャンルでフリーライター、フリー編集者として活動中。

(取材・文・撮影/緒方りえ)

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