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2017.08.04

健康版ビリギャル?!人々の健康偏差値を上げる異色の医師とは?【順天堂大学・福田洋先生インタビュー③】

KenCoM編集部

順天堂大学医学部総合診療科准教授・福田洋先生

順天堂大学医学部総合診療科准教授・福田洋先生

ヘルスリテラシーを活用した健康作りを提案する福田洋先生のインタビューも第3回目です。前回までは健康診断をきっかけに自分の身体に興味を持ち、健康に関する正しい知識を得て行動する方法をお伝えしてきました。今回は働き盛りのビジネスマンや患者にいつも誠実に向き合っている福田先生がなぜ今のような医師になったのかをお伺いします。小さな頃から「情報を発信する」ことが好きだった福田少年の姿がそこにはありました。

▼前回・前々回の記事はこちら

<お話を伺った方>福田洋先生

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■福田洋(ふくだ・ひろし)先生:
山形大学医学部卒業。1999年順天堂大学大学院医学研究科(公衆衛生学)修了・博士(医学)取得。現在、順天堂大学医学部総合診療科准教授。臨床医の業務を行う傍ら、都内の複数の企業の産業医も担当し、職域を対象とした効果的な生活習慣病スクリーニングと健康教育プログラムの開発や評価など「働く人々」の健康を中心に研究を行う。「ヘルスリテラシー」に関する講演も多数。近著は『ヘルスリテラシー :健康教育の新しいキーワード』(大修館書店)。

人々のリテラシーを上げる医師・福田洋先生の幼少期とは?

伝えることが好きだった福田少年

――小さい頃の福田先生はどんな少年だったんですか?

6歳の頃から“福田新聞”という家族の新聞を作っていました。今は懐かしいガリ版を使って、僕と妹で取材して記事を書いて新聞にしていました。

――そんな小さい頃からですか!

そうなんです。小学生の頃からメディアや情報を人に伝えることに興味があったのだと思います。
その後、中学生になってからは『Newton』『ムー』など科学雑誌が流行っていた影響もあり、コピー機(当時はゼロックスと言っていました)で“Future”と言う科学雑誌を友人数名と作っていました。医師で研究者だった父の影響もあって、“Future”では「日経メディカルを観る」なんていう記事を書いてて。生意気ですよね。

300人中2位を獲得した塾講師

大学時代は大手の塾の講師をやっていたのですが、その塾で300人の学生講師の中で2位になるくらい人気がありました。特にプリントが得意で“プリントの福田”と呼ばれていました。ここでも情報をわかりやすく楽しく伝えて学生に興味を持ってもらうことを大事にしていました。とにかく小さい頃から一貫して「情報を伝える」ということに興味があって、それが今につながっているのだと思います。

健康版ビリギャル?!人の行動を変える医師

偏差値40の子を引き上げたかった

(イメージ)

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その後、塾のアルバイトで教えることの楽しさに目覚めて、学生時代に自分で塾を開いてしまったんです。
その塾では15人くらいの高校受験を控えた中学生に教えていました。テストで40~50点の子が80点を取れるようになることを目標にしていました。映画“ビリギャル”みたいに、勉強が不得意な子が勉強に関心を持つようになることが一番の喜びでした。

いかに興味を持ってもらうか

――医師になってからも、患者教育や健康教育を続けているんですね。

▼写真:患者教育の様子(札幌西区病院での糖尿病患者教育,1994)

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有益な情報を楽しくわかりやすく伝えるということが今の仕事の原点になっていると思いますね。研修医時代には、自分で描いたマンガ入りのテキストを作り、チームで糖尿病患者教育を行っていました。今でも講演やプレゼンの際、工夫を凝らしています。塾の講師も、医師も、似ているところがあります。普段忙しくて自分の健康を後回しにしてしまう働き盛りのビジネスパーソンの興味を引く方法を見つけ、情報が伝わり行動が変わってくると嬉しいです。
今この記事を読んでくださっている読者の方々にも、関心を持っていただけたら嬉しいです。この記事や健康診断をきっかけに、自分の身体に興味を持ち、健康への第一歩を踏み出して欲しいと願っています。

▼写真:自筆のマンガも活用した健康教育(札幌西区病院での糖尿病講座チラシ,1994)

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健康寿命を延ばすために必要な情報力とは?

医師に叱られて渋々やるものではない

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――最後に、改めて健康を学ぶ上で大切なことは何でしょうか?

やはり「自ら興味を持って学ぶこと」だと思います。多くの人は「医学の知識は難しい、わからない」と思っていますよね。健診結果が悪ければ、医師に叱られる、医師の言うことを聞かなければならないと思い込んでる人もいると思います。でも、健康になることは、医師に叱られて渋々やるようなことじゃないんですよ。もしかすると「俺の言うことを聞けよ」というような態度の医師もいるかもしれませんが、自分と自分の大事な家族を守るためにはやはり自分たちで情報を身につける必要があると思います。正しい情報を見極めて、自分の身体に興味を持つことで、健康を手に入れることができます。

患者のヘルスリテラシー向上は医師にとっても大歓迎

(イメージ)

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――患者が知識をつけることを、お医者様はどう考えているのでしょうか?

実は患者のヘルスリテラシーが向上することは、医師にとっても大歓迎なんです。
例えば、救急医療の現場では、地域住民のヘルスリテラシーと救急外来の受診が関連しています。日本の救急医療はとても疲弊しています。患者さんが正しい判断をできれば、ちょっとしたことで救急で駆け込んでくることは減り、救急医も本当に対応すべき患者に注力できます。

健康経営のゴールは、組織のヘルスリテラシー向上

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これは会社の健康風土についても同様のことが言えると思いますね。組織のヘルスリテラシーが高いと、おのずと不健康な人は減ってきます。例えばマラソンを走る人が出てきたり、社内でチームが作られたり、ランチで健康診断の話題が出たり。森晃爾先生(産業医科大学産業保健経営学研究室教授)も「健康経営のゴールは、組織のヘルスリテラシー向上である」とおっしゃっています。それは、すなわち人材育成・社員教育なのだと思います。

――ヘルスリテラシーが高い会社は、生産性が上がると考えてよいでしょうか?

具体的な研究やエビデンスの蓄積はこれからですが、社員の健康意識を高めることで社員が健康に関心を持つと、過重労働を避け、女性が働きやすい環境を作ったりという変化が現れることもあるでしょう。また欠勤(アブセンティーイズム)や体調不良(プレゼンティーイズム)の原因となる疾病の予防が進むでしょう。そのようにして働きやすい職場になれば、結果的に生産性も高まってくると考えています。

健康マスター検定という手も

――健康経営のツールの1つとして、「日本健康マスター検定」が最近始まりましたね。福田先生も監修に協力されているとか。

ヘルスリテラシー向上のために、日本健康マスター検定を受験するのも1つの手です。受検をきっかけとして健康に関心を持てるのは良いことです。また多くの社員に受検を勧めることで、会社としてはその健康経営の意思・ビジョンを伝えるという意味もあると思います。

職場での健康風土を作る

J&Jでは「健康投資1ドルに対し3ドル分のリターン」(生産性向上、医療コスト削減、リクルート効果、企業ブランド向上などによる)があったといわれています(出典:『平成26年度「健康経営銘柄」について』,経済産業省,2014 ※1)。日本でも「健康経営企業の株価推移はTOPIX上回る」と言われています(出典:『「健康経営銘柄」について』,経済産業省,2015 ※2)。少子高齢化で優秀な人材確保が困難になる中、今後、より健康経営が注目されるようになることでしょう。

格差社会を健康に生き抜くために

――福田先生の今後のビジョンは?

これからもヘルスリテラシーの重要性を伝えていきたいですね。今後も働き盛り世代の人たちの健康を支援したいですし、「働き盛り村のかかりつけ医」でありたいと思っています。
日本では今後も格差社会は広がっていくと思いますが、情報こそが最大の武器になると考えています。自分と自分が大事に思う人のかけがえない健康のために、有効な情報を吟味して活かして欲しいです。

――KenCoMでも働き盛り世代のための情報を発信していこうと思います。ありがとうございました!

福田先生の話を伺っていると、なるほど!とはっとさせられる情報が多数ありました。それだけ私たちは意外と健康に対する情報に疎いのかもしれません。年に1度の健康診断の機会をうまく活用し、自分の身体と向き合い、正しい情報を得ることでより健康になっていきたいですね。皆さんも、明日からでもぜひ実践してみてください。

(取材・文・撮影)KenCoM編集部

▼参考文献

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