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2018.12.06

脳梗塞の治療はどんなことをする?【スピード勝負の脳梗塞対策③】

KenCoM公式:ライター・緒方りえ

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厚生労働省が発表している日本人の死因は「1位がん、2位心疾患、3位脳卒中、4位老衰、5位肺炎」であるということ、ご存知でしたか? 秋田県の推定データによる2020年の脳卒中の推定患者数は、年間30万人が発症して、有病者数は約300万人とされています。そして、そのうち2/3が脳梗塞なのです。そこで、特集3回目は「脳梗塞の治療」についてご説明します。今回もわかりやすく説明してくださったのは前回に引き続き東京済生会中央病院の星野晴彦先生です。

脳梗塞後の後遺症とリハビリについて

脳梗塞を含む脳卒中は、寝たきりになる最大の原因です。対処が遅れると重い後遺症が残ってしまったり、死にいたることもある怖い病気です。だからこそ、素早い対応とリハビリが大事になります。

脳梗塞の後遺症はさまざま

残念ながら脳の組織が死んでしまうと、そこが司っていた機能は100%には戻りません。一番有名な後遺症は、片麻痺などの運動障害です。人によっては半盲(左右どちらの目で見ても片側が見えない)、失語症(言葉が理解できない、喋れない)、半側無視(空間が把握できない)など様々な後遺症を残します。

また、バラバラと細かい脳梗塞をたくさん起こしてしまうと認知症になったり、パーキンソン症状(歩行が悪くなったり、バランスが取れず転びやすくなったりする)や、嚥下障害(食べ物の飲み込みが悪くなる)になることもあります。

予後について

脳梗塞の部位や大きさによっては、命に関わることも多々あります。生命維持に関わる脳幹がダメージを受けたり、脳梗塞が広範囲に及ぶと、頭蓋骨の中で脳が浮腫んで他の正常な組織まで潰してしまうこともあるのです。

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補足すると、脳梗塞のうち、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞(脳血栓症)を発症する年齢のピークは70歳代、心原性脳塞栓症は非常に高齢者に多くピークは80歳代です。死亡率の地域差でいうと、東北や北関東に圧倒的に多いと言えます。おそらく、食べ物の味付けが濃いなどの生活習慣も関係しているでしょう。

リハビリでの機能回復の効果

運動麻痺に関しては、発症して3〜6ヵ月くらいまでならば(回復する余力がある部分は)ある程度回復できるでしょう。言語に後遺症がある場合は1年2年という時間をかけて徐々に回復することもあります。

しかしながら、せっかく回復した機能が老化によってまた低下してしまうこともあるため、現状を維持するためのリハビリも必要になってきます。機能が劇的に改善できる人もいれば、全く変化がない人もいるのです。

期待されているリハビリ

現在では、強い麻痺による拘縮(筋肉が固まって動かせない)の改善のためにボツリヌス毒素を注射したり、頭に電流を流しながら運動するなどのリハビリの進歩もあります。また、ロボットを使うバイオフィードバックという方法も出てきています。
ITの進歩が進めば、頭で考えただけで実用的にロボットを動かせるようなものが期待できるのではないでしょうか。

脳梗塞のサポートをうまく活用しよう

介護保険は65歳以上ですが、40歳以上からの特定疾患の中に脳血管疾患が入っているので、若いうちに脳卒中を起こしてしまって介護が必要な時は介護保険の申請ができます。ケアマネージャーや市町村の福祉保健課などにサポートの相談をしてみましょう。

社会復帰が今後の課題

脳梗塞で倒れて後遺症がある場合、社会復帰できる人は約半分と言われています。脳卒中の約15%は就労世代(65歳未満)に起きていて、発症して1年半のデータでは、そのうち50%しか社会復帰ができていません。
復職できるチャンスを作る必要がありますが、なかなか難しいのが現状です。

脳卒中の治療には一連の流れがある

今は飽食の時代、栄養も増えたため血管がつまりやすくなってしまいました。血圧の管理はもちろん、生活習慣を整えることが脳梗塞の予防につながることはみなさんご存知でしょう。ここではもう少し詳しく、脳梗塞の治療の進み方をご説明します。

①発症を予防するには生活習慣と危険因子の管理

脳梗塞の一番の治療は、発症させないことです。
危険因子である高血圧、脂質異常(高コレステロール血症)、糖尿病のコントロールと禁煙、心房細動の管理をきちんと行うことが大切です。

②救急外来、急性期病棟

脳梗塞の発症から早い段階で病院に運ばれたら、まずはt-PAによる血栓溶解療法や血管内の血栓回収を行います。もしもその治療ができなかった場合は、抗血小板薬や抗凝固薬、脳保護薬などの薬物による治療を行います。
1分でも早く治療開始することが後遺症を左右しますので、非常に重要です。

③回復期病棟

生命の危険などから脱して症状が落ち着いてきたら、リハビリができる回復期の病院や病棟に移ります。
ここでは医師や看護師の他に、歩行訓練などを中心にリハビリを行う理学療法士(PT)、手作業など細かい運動を中心にリハビリを行う作業療法士(OT)、言葉や飲み込みなどのリハビリを行う言語聴覚士(ST)、管理栄養士などが連携して、それぞれの目標や後遺症にあったリハビリが組まれます。回復期病棟を出た後は、社会復帰、自宅療養、慢性期病棟に転院、施設転院などの選択肢があります。各病院に居るソーシャルワーカーに相談しても良いでしょう。

④外来

脳卒中になった場合は、再発予防が大切!
医師が検査や予防の指導を行います。生活習慣が乱れている人は生活改善を心がけてもらいますが、特に禁煙が大切です。喫煙は肺がんにもなりますし、脳の血管を傷めたり心筋梗塞を引き起こしたりします。また、意外と知られていませんが、喫煙は動脈瘤(頭蓋骨の脳の表面の血管にできるコブで、破裂すると生命に関わる。)ができやすくなるため、くも膜下出血を起こしやすくなります。

また、生活習慣の見直しとと同時に、再発予防のために抗血小板薬(血液を固める役割のある血小板の働きを弱める薬)、 抗凝固薬(血液が固まりにくくなる薬)などの抗血栓薬を処方。原則として、薬は飲み続けてもらいます。
もちろん、心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症(足の血管がつまる)、糖尿病などの他の病気の予防や治療も行います。血管は全身にあるので、脳だけではなく全身を管理するのです。

脳梗塞は予防こそ肝心

一度発症してしまうと、一生付き合わなくてはならない脳梗塞。
大切なのは第1回目でご紹介したFASTなどの疑わしい症状にいち早く気づくこと。自分の身体に興味を持ち、早め早めの受診と治療で今後の生活が大きく変わることでしょう。

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星野晴彦(ほしの・はるひこ)先生

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1959年生まれ。1983年慶應義塾大学医学部卒業後、東京都済生会中央病院内科研修医として勤務。その後、専修医、医員。1989年米国クリーブランドクリニック神経内科、英国国立神経病院、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校神経内科およびアルツハイマー研究所で臨床研修。帰国後、東京都済生会中央病院神経内科副医長、神経内科医長。05年慶應義塾大学医学部神経内科講師、07年慶應義塾大学医学部神経内科・脳血管障害予防医学講座特別研究准教授、11年より東京都済生会中央病院内科部長・神経内科部長・脳卒中センター長。2018年より東京都済生会中央病院副院長。神経内科専門医、総合内科専門医、脳卒中学会専門医、頭痛専門医。専門領域は脳血管障害。2013年より公益社団法人日本脳卒中協会東京都支部長として、市民向け脳卒中の知識・予防セミナーを開催。

著者プロフィール

■緒方りえ(おがた・りえ)
1984年群馬県生まれ。20代から看護師として活動をする傍ら、学会への論文寄稿や記事の作成なども行う。2015年独立しフリーの編集者として活動。2017年より合同会社ワリトを設立し代表社員に就任。医療系を中心に、旅行、雑貨など幅広いジャンルでフリーライター、フリー編集者として活動中。

(取材・文・撮影/緒方りえ)

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