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2016.07.01

カラダにいい食事はコスト高?和食の国日本が抱える問題とは【医師・津下一代コラム】

津下一代

ただ長生きをするのではなく、健康でイキイキと暮らせる寿命―「健康寿命」。健康寿命を伸ばすには、食生活が課題のひとつですが、個人では解決できない課題も。和食の国でありながら、いま私たちが抱える問題とは?
糖尿病・肥満を専門とし、厚生労働省における「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定にも携わる、あいち健康の森健康科学総合センター・センター長 津下一代先生が、メタボに悩むあなたに知ってほしい基礎知識をわかりやすくご紹介します。

いかに健康でイキイキ暮らせる寿命を伸ばすか?

私たちのセンターでは、みなさまの健康で充実した生活の応援ができるよう、日々取り組んでおります。センターは教室や運動施設等を通して一人ひとりへの健康づくりのお手伝いをしていますが、実はそれだけでなく、県内すべての市町村に対して健康政策を支援する役割を担っています。「健康日本21あいち新計画」推進拠点として、10年後も健康長寿県であり続けるために、毎日ように職員が市町村に出向いて健康づくり支援をしています。

ところで、厚生労働省の主導する「健康日本21」では、10数年前より「健康寿命の延伸」を最上位の目標に掲げて生活習慣病対策に取り組んできましたが、昨年、この目標は厚生労働行政の枠を超えて、政府の「日本再興戦略」に盛り込まれることになりました。
高齢になっても健康で生き生きとした生活を営める社会は「国家の強み」であり、健康寿命を延伸することは「戦略的に可能である」と認識されるようになりました。確かにメタボ対策や運動の普及で糖尿病予備群が減少し始めるなど、明るい兆しが見えています。
今後は医療や健診・健康づくりの啓発などの狭い分野だけではなく、健康的な生活を支える環境づくりなど、省庁横断的な取組みが進められることになりそうです。

世界一の長寿国、日本の食生活とは?

和食は理想の食事、無形文化遺産にも登録

たとえば食生活。日本人は世界一の長寿国ですから、和食を主体とした食生活は理想に近いものと考えられています。
平成25年末、ユネスコ文化遺産に登録されましたが、1.多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、2.栄養バランスに優れた健康的な食生活、3.自然の美しさや季節の移ろいの表現、4.正月などの年中行事との密接な関わり、の4つの特徴をアピールした結果といいます。
日本人が長寿であることや、肥満者が国際的にみて少ないことなどが、和食の魅力を後押ししたといえるでしょう。

単身世帯では外食が中心

しかし、私たちがいつも理想的な食生活ができるかといえば、なかなか難しいのが現実です。
食糧費支出に関する調査結果(東京学芸大学 大竹美登里氏)によると、二人以上の家庭では食糧費に占める食材の割合が56%であるのに対し、単身世帯では35%にとどまっていました。
とくに34歳までの男性単身世帯では、外食費が57%、お惣菜が15%、飲料・菓子類が17%であり、食材費が11%にとどまるという結果でした。外食は一般的にいって味付けが濃く、油が多い傾向があります。せっかく日本に住んでいながら、健康的な食生活とはいえない可能性が高いのです。

健康的な食事を安価に提供できる仕組み作りが健康日本のカギ

ところで、健康的な和食をつくる代表的な食材をまとめた言葉”まごわやさしい”をご存知でしょうか?

「ま」は大豆などの豆類、「ご」はごま、「わ」はわかめなどの海草、「や」は野菜、「さ」は魚、「し」はしいたけなどのきのこ類、「い」はいも類。しかし、和食を作るこれらの食材を、外食だけで摂ろうとするのはなかなか難しいものです。
最近ではバランスの良いメニューも普及していますが、まだ限られたお店でしか提供されていないのが現状です。

健康的な食事を提供する飲食店の悩みは、新鮮な野菜類を使うと食材費が高くなること。
せっかくメニューを準備しても高くて食べてもらえないのでは、意欲が薄れてしまいます。
今後は流通面の改善等で食材費を抑え、健康的な食生活を安価に提供できる仕組みを整えていくこと、少し高くても健康に良い食事を選ぶ消費者が増えていくことの両面が、健康長寿日本のカギを握るのではないでしょうか。

<著者プロフィール>

記事画像

■津下一代(つした・かずよ):
昭和58年名古屋大学医学部医学科卒業、国立名古屋病院内科(内分泌代謝科)、名古屋大学第一内科での臨床・研究活動を経て、平成4年愛知県総合保健センターに勤務、12年あいち健康の森健康科学総合センター、23年より同センター長兼あいち介護予防支援センター長(現職)。医学博士、日本糖尿病学会専門医・糖尿病療養指導医、日本体育協会公認スポーツドクターなどの資格をもち、糖尿病、肥満、スポーツ医学の専門医として活躍。日本肥満学会理事、日本人間ドック学会理事、厚生労働省にて日本健康会議実行委員会委員をつとめ、「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定に携わる。主な著書に「しなやか血管いきいき血液―健康寿命をのばすために知っておきたい65のはなし」「図解 相手の心に届く保健指導のコツ―行動変容につながる生活習慣改善支援10のポイント」など。その他、「NHKきょうの健康 コレステロール・中性脂肪対策のごちそう術」の監修も務める。

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