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2016.07.01

知ってほしい!増加中のがんやアルコールが原因のがんって?【医師・津下一代コラム】

津下一代

一昔前は「がん=不治の病」と認知されていましたが、がんの原因究明が進むにつれ、新たな治療法や課題も明らかになってきています。いま私たちはがんにどう向き合えばよいのでしょうか?
糖尿病・肥満を専門とし、厚生労働省における「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定にも携わる、あいち健康の森健康科学総合センター・センター長 津下一代先生が、メタボに悩むあなたに知ってほしい基礎知識をわかりやすくご紹介します。

がんによる死亡率は近年着実に減っている

がんで死亡する人は多いが、年齢調整死亡率は下がっている

生涯のうち男性の6割、女性の4割が「がん」になる時代となり、国民全体の死亡原因の約3割を占めています。がんによる死亡者数は約50年前には約10万人でしたが、27年前には20万人、12年前約30万、平成24年には36万人に増加しています。感染症、脳卒中などでの早期死亡が減り、長生きできるようになった結果として、がんになりやすい年齢に到達する方が増えたことがもっとも大きな理由です。
そこで、高齢化という人口構造変化による影響を除外して、がん罹患・死亡の状況を検討する必要があります。「昭和60年日本人モデル人口による年齢調整死亡率」という指標は、保健医療統計の世界で重要視されている指標ですが、27年前にピークだった全がんによる年齢調整死亡率は人口10万人対161人だったのが、約10年前には145人、平成24年には127人へと、着実に減ってきています。

胃がん・肝臓がんは減少傾向にある

部位別にみると、特に大きく減少したのが胃と肝臓です。
57年前には男性10万人中100人が胃がんで亡くなっていました。食事中の塩分が減少したことや検診による早期発見・治療により徐々に減少、27年前には50人となりました。
1983年に発見されたピロリ菌が慢性胃炎・胃潰瘍を引き起こし、さらには胃がんを増やすことが判明、ピロリ菌検査や抗生物質による除菌療法が開発され、保険適応となりました。さらに治療面でも内視鏡的手術の発達や抗がん剤の開発、効果的な使用法が普及。2014年には、男性胃がんの年齢調整死亡率は26人と、約10年間でも3割減らすことができています。

肝臓がんもこの10数年で死亡率がほぼ4割減と、著明に減少してきたがんの一つです。もともと肝臓がんは慢性肝炎との関係が知られていましたが、28年前にC型肝炎ウイルスが発見され、検査が可能になりました。すぐに献血時にチェックするようになり、輸血後肝炎が激減、がんの征圧に功を奏しました。検診やドックにもC型肝炎検査が導入され、自覚症状がない段階でキャリアを発見することができるようになったこと、インターフェロンや抗ウイルス薬の開発によりがんを発生する前の治療が普及したこと、画像診断の普及により早期発見と治療が可能になったことが死亡を減らしています。今後さらなる減少が予測されています。

新しい治療法の開発も進んでいる

悪性腫瘍というと、昔は「不治の病」と考えられてきました。しかし、胃がん、肝臓がんのように原因究明が進み、対策が可能になったがんもあれば、治療法の開発により生存率が高まったがんも少なくありません。
子どもの頃見た「巨人の星」では、星飛馬の恋人、日高美奈さんがメラノーマ(悪性黒色腫)のために若くして死亡しました。しかし最近、全く新しい作用機序で効く薬(がんと闘う免疫細胞を活性化)が開発され、生存期間の延長が確認され、米国に続いて日本でも臨床使用できるようになりました。かつては多くの人が死に至ったがんに解決の道が開けてきました。

新たな治療法が生まれる一方で増えるがんの種類とは?

食道がん、膵臓がん、肺がん、子宮がん、乳がんは増え続けている

私たちのだれもが罹患する可能性のあるがん。男性の食道がん、女性の膵臓がん、肺がん、子宮がん、乳がんの年齢調整罹患率はいまだ高くなり続けています。近年、アルコールが食道がん、膵臓がんの発生と密接に関係していることが明らかになってきました。

喫煙、飲酒、肥満などのリスクに配慮しつつ、がん検診を

従来から指摘されている喫煙のほか、飲酒、肥満、運動不足などの危険因子に十分に配慮すること、それでも発生するがんも多いので、必要ながん検診を定期的に受けることが大切です。そしてがんになったとしても、昔にはなかった有効な治療法が増えてきていることに、希望を持ちたいと思います。

(データの出典:国立がん研究センター がん対策情報センター)

<著者プロフィール>

■津下一代(つした・かずよ):
昭和58年名古屋大学医学部医学科卒業、国立名古屋病院内科(内分泌代謝科)、名古屋大学第一内科での臨床・研究活動を経て、平成4年愛知県総合保健センターに勤務、12年あいち健康の森健康科学総合センター、23年より同センター長兼あいち介護予防支援センター長(現職)。医学博士、日本糖尿病学会専門医・糖尿病療養指導医、日本体育協会公認スポーツドクターなどの資格をもち、糖尿病、肥満、スポーツ医学の専門医として活躍。日本肥満学会理事、日本人間ドック学会理事、厚生労働省にて日本健康会議実行委員会委員をつとめ、「標準的な健診・保健指導プログラム」や「運動指針」等の策定に携わる。主な著書に「しなやか血管いきいき血液―健康寿命をのばすために知っておきたい65のはなし」「図解 相手の心に届く保健指導のコツ―行動変容につながる生活習慣改善支援10のポイント」など。その他、「NHKきょうの健康 コレステロール・中性脂肪対策のごちそう術」の監修も務める。

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