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2018.01.24

コーヒーのカフェインが難病の予防になるかも?【KenCoM監修医・最新研究レビュー】

KenCoM監修医:石原藤樹先生

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寒い朝には暖かいコーヒーが美味しいですよね。コーヒーに含まれるカフェインには、ある病気の予防効果があるのだそうです。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにKenCoM監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「石原藤樹のブログ」より、KenCoM読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、今年のNeurology誌に掲載された、血液のカフェイン濃度とパーキンソン病との関連についての論文です。順天堂大学などの研究チームによるもので、一般紙などにも記事になっていました。

▼石原先生のブログはこちら

コーヒーを飲む人にパーキンソン病は少ない?

カフェインは神経細胞の編成を予防する働きがある

パーキンソン病は代表的な神経難病の1つですが、以前よりコーヒーを沢山飲む人にはこの病気が少ない、という疫学データが、男性とホルモン補充療法をしていない女性では、得られています。

この男女差については、女性ホルモンのエストロゲンとカフェインが、同じ肝臓の酵素を共用していることに、その一因があると考えられています。

動物実験のレベルでは、カフェインはパーキンソン病による、神経細胞の変成を予防するような働きがあると報告されています。
カフェインの代謝産物についても、神経毒性を弱めるような作用があると報告されています。ただ、これはあくまで動物実験レベルの知見です。

臨床的にはカフェインの使用は、アデノシン2A受容体の阻害作用により、パーキンソン病の運動症状を改善するという複数の報告があります。

ただ、それがカフェインそのものの作用であるのか、それとも、その代謝産物を介した作用であるのか、といった点については、まだ明らかにはなっていません。

パーキンソン病患者たちの血液を検証すると

血液中のカフェインと代謝産物9種類の濃度が低下していた

今回の研究では、パーキンソン病の患者さん108名と、年齢をマッチさせたコントロール31名に、血液中のカフェインとその11種類の代謝産物を測定し、その比較を行っています。
また、カフェインの代謝酵素の活性や、パーキンソン病の症状とカフェイン濃度との関連についても、同時に検証を行っています。

症例は全て順天堂医院の患者さんで、既に治療を受けています。
カフェインは小腸から吸収されると、その95パーセントが、肝臓の代謝酵素CYP1A2による代謝を受けます。
その代謝産物の1つが、気管支拡張薬として使用されるテオフィリンです。
今回の研究では、代謝酵素の活性に関わる、SNPと呼ばれる遺伝子変異を解析することで、その関連を調べているのです。

その結果、カフェインとテオフィリンを含む9種類の代謝産物の血液濃度は、パーキンソン病群において、コントロールと比較して有意に低下していました。

カフェインと代謝産物濃度を併せて調べれば、パーキンソン病の診断が可能

血液のカフェイン濃度は、当然コーヒーやお茶などの摂取量の、影響を受ける訳ですが、今回の研究では、摂取量の簡単な調査を行い、有意差がないので関連はない、という結論になっています。この点についてはこれで良いのかやや疑問です。

カフェイン濃度に代謝産物の濃度を併せて指標とすると、非常に高い感度と特異度で、パーキンソン病の診断が可能であることが確認されました。(ROC曲線のAUC0.98 )
これはカフェイン単独では(AUC0.78)とそれほどではない、というところが1つのポイントです。

パーキンソン病の重症度や運動障害の有無、代謝酵素の活性に関わる遺伝子変異の有無と、カフェインやその代謝物濃度との間には、有意な関連は認められませんでした。

治療中の患者さんに対しては、一定の検証ができたといえそう

つまり、例数はそれほど多くはなく、単独施設で治療中の患者さんのみでの検討、と言う点はデータとしては少し弱いのですが、数値としてはかなり明確に差が出ていて、パーキンソン病の患者さんにおいては、血液のカフェインとその代謝物の濃度が低いという現象のあることはほぼ間違いがなさそうです。

ただ、その原因がたとえば特定の代謝酵素の活性と、関連が明確にあって、その遺伝子座とパーキンソン病の関連遺伝子との間にも、関連がありそう、というようなことがあれば、臨床にも直結するより重要な知見と言えるのですが、今回の検証では代謝酵素の活性との関連も明らかではなく、パーキンソン病の重症度などとも無関係で、カフェインの摂取量との関連もないのですから、この現象の原因も臨床的な意義も、全く不明であるということになります。

今後の検証に期待される

論文の考察においては、カフェインの小腸からの吸収に、パーキンソン病により差があるのではないか、という考え方が示されていますが、仮にそうであるとすれば、カフェインの摂取量を一定にしたり、極端に一定期間少なくしたり多くしたりして、その変化を見るなど、より吸収や代謝の差に踏み込んだ検証が、不可欠であるように思います。

また、遺伝子の変異での差を見るには、今回の例数は如何にも少ないので、今後大規模な遺伝子解析のデータを活用するなどして、そのメカニズムに踏み込んだ解析も必要であるように思います。

そんな訳でまだこの知見が、今度どのように利用可能であるのかは未知数なのですが、現象自体は非常に興味深く、今後より掘り下げた検証を期待したいと思います。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36