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2019.09.04

日本人の脂肪肝はインスリン抵抗性に関係ある?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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内臓周りに脂肪がつく内臓脂肪と、肝臓に過剰な脂肪がたまる脂肪肝。日本人にとってはどちらが糖尿病のリスクが高まるのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、2019年のJournal of the Endocrine Society誌に掲載された、脂肪肝とインスリン抵抗性との関連についての論文です。
順天堂医院の研究グループによる研究です。

▼石原先生のブログはこちら

インスリン抵抗性が主体の2型糖尿病が多いアジア人

欧米の2型糖尿病は肥満による内臓脂肪の蓄積が、その主な原因とされていて、殆どの患者さんは高度の肥満ですが、日本を含むアジアにおいては、やせ形でインスリン抵抗性を主体とする2型糖尿病が、欧米より大きな比率を占めている、という特徴があります。

ただ、その原因は未だ不明です。

そこで1つの仮説としては、アジア人では食事から得た過剰なエネルギーを、皮下脂肪に溜める力が弱く、そのため肥満に至る前にあふれ出した脂肪が、内臓脂肪や肝臓、筋肉への脂肪の蓄積に結び付いて、それがインスリン抵抗性に繋がっているのでは、という考え方があります。

しかし、肝臓への過剰な脂肪の蓄積である脂肪肝と、胃や腸の周りに蓄積する内臓脂肪の、どちらがより強くインスリン抵抗性と関連しているのかについては、あまり明確なことが分かっていません。

インスリン抵抗性と関連があるのは、内臓脂肪よりも脂肪肝

そこで今回の研究では、肥満がなく(BMIが25未満)、糖尿病のない、日本男性87名に、人工膵臓を用いたインスリン抵抗性の厳密な検査を行い、同時にMRIとMRスペクトロスコピーという手法を用いて、内臓脂肪の蓄積と脂肪肝の有無を診断。両者の関連を検証しています。

その結果、内臓脂肪の蓄積はなくても、脂肪肝があるとインスリン抵抗性が認められたのに対して、内臓脂肪の蓄積はあっても、脂肪肝のない場合には、インスリン感受性は良好であることが確認されました。

つまり、日本人の肥満のない男性に限った場合の話ですが、内臓脂肪の蓄積とその目安の1つである腹囲の増大より、脂肪肝の方がより強くインスリン抵抗性と関連していた、という結果です。

腹囲だけではなく脂肪肝にも気をつけて

現状は世界的に見ても、腹囲を基準としてメタボを判定することが主流ですが、特定の人種や集団においては、むしろ脂肪肝の方がより病気のリスクの、指標であるのかも知れません。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36