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2023.02.28

いま注目の糖尿病治療薬、SGLT2阻害剤。肺疾患の予防効果も【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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今注目の糖尿病治療薬SGLT2阻害剤。心血管疾患や腎臓病の進行を抑制する効果は確認されていますが、さらに肺疾患にも有効という研究があるのだとか。

今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2023年1月17日ウェブ掲載された、糖尿病の治療薬の呼吸器疾患への効果を検証した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

SGLT2阻害剤の効能は?

SGLT2阻害剤は最近最も注目されている、2型糖尿病の治療薬です。この薬は尿へのブドウ糖の排泄を増加させる作用の薬です。

それにより確かに血糖値は低下しますが、尿糖が増加することは尿路や陰部の感染のリスクを高めますし、尿量が増加して脱水のリスクも高めますから、使用開始当初は、あまり良い薬のようには思えませんでした。

この薬が注目されたのは、心血管疾患による死亡や総死亡のリスクを有意に30%以上低下させるという、画期的なデータがエンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で報告されたからです。(※2)

その後、この心血管疾患の生命予後改善効果の多くは、心不全の予後改善による部分が大きいことが解析され、SGLT2阻害剤は心不全の治療薬としても、有効な可能性が開かれたのです。(※3)

最近ではそれ以外に、慢性腎臓病に対する進行予防効果も複数の臨床データで実証されています。(※4)

抗炎症作用もある

2型糖尿病には多くの慢性疾患が合併しており、肺気腫や気管支喘息などの閉塞性肺疾患もその1つです。

SGLT2阻害剤には、尿へのブドウ糖の排泄増加以外に、抗炎症作用があることが報告されていて、それが心不全や慢性腎臓病への有効性の1つの要因となっていると想定されています。その抗炎症作用は、肺組織にもあることが報告されています。

それでは、糖尿病に合併した肺疾患に対する予防効果も、SGLT2阻害剤には存在しているのでしょうか?

SGLT2阻害剤には肺疾患を予防する効果もあるのか?

今回の研究は香港において、大規模な臨床医療データを解析することにより、この問題の検証を行なっています。

2型糖尿病の患者、トータル30385名を対象として、SGLT2阻害剤の使用者を、同じように治療に広く使用されているDPP4阻害剤と、中間値で2.2年の経過観察を行なったところ、DPP4阻害剤使用者と比較して、SGLT2阻害剤の使用者では、閉塞性肺疾患の発症リスクが35%(95%CI:0.54から0.79)、有意に低下していました。

また閉塞性肺疾患の急性増悪のリスクも、46%(95%CI:0.36から0.83)有意に低下していました。

閉塞性肺疾患予防に有効

このように、SGLT2阻害剤の使用は、2型糖尿病の患者さんにおいて、閉塞性肺疾患の発症予防や重症化予防に一定の有効性のあることが示唆されました。

今後、他の臓器疾患の予防効果と同様に、より精度の高い臨床試験で検証する必要がありますし、糖尿病の患者さん以外での有効性も、同時に検証される必要があると思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36