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2023.11.06

幻覚剤のシロシビンは持続的抗うつ効果がある?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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病気の治療に欠かせない薬ですが、薬の作用には主作用の他に副作用や、薬の影響の判断がつかない有害事象と呼ばれるような症状がでてしまうこともしばしばあります。

今回ご紹介するのは、AMA誌に2023年8月31日ウェブ掲載された、幻覚剤の成分であるシロシビンに、安定して持続した抗うつ作用があるとする報告です。

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うつ病の治療薬の現状

うつ病の治療薬である抗うつ剤は、その有効性は確認されている一方で、長期の継続的な服用が必要となることが多く、有害事象や副作用も少なからず存在している、という欠点があります。

そのため薬物を使用しないうつ病の治療についても、研究が進められていますが、現時点で抗うつ剤の必要性がなくなるような、安定した有効性のある代替治療は確認されていません。

マジックマッシュルームと呼ばれる、特殊な幻覚作用のあるキノコ類があり、それを乾燥させたものが幻覚剤として使用されることがあります。麻薬と同じ取り扱いとなり、違法薬物として規制されています。この幻覚作用のある成分がシロシビン(Psilocybin)です。

2016年にこのシロシビンに、うつ病に対する持続的な有効性があるとする研究結果が発表され、話題を集めました。(※)シロシビンはセロトニン受容体を刺激するような作用があり、その意味ではうつ病に有効であってもおかしくはないのですが、他のうつ病治療薬に見られるような副作用がなく、一度の服用で1か月を超える長期間、その効力が持続するという効果は、それだけでは説明が出来ないものです。

ただ、これまでのシロシビンの臨床的な有効性の報告は、症例報告やせいぜい数十人の少数例の検証が殆どでした。

アメリカのうつ病患者を検証

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今回の研究ではシロシビンの臨床使用に向けた、第2相の臨床試験として、アメリカの11か所の専門施設において、年齢が21から65歳で60日以上持続するうつ病症状があり、投薬治療をしていないか、していても減量中止が可能な104名のうつ病患者を、くじ引きで2つの群に分けると、一方はシロシビンを1回25㎎で単回使用し、もう一方はビタミン剤のナイアシンを100㎎偽薬として単回使用して、その後6週間の経過を観察しています。

その結果、シロシビン使用群ではナイアシン使用群と比較して、臨床的なうつ病尺度が有意に改善を示し、その有効性は6週間持続していました。

シロシビン内服群では幻視などの幻覚症状が、44%に認められましたが、一時的なものでその後の治療経過には、大きな影響を与えていませんでした。

シロシビンは通常の薬剤より慎重な判断が求められる

シロシビンは幻覚剤で一定の常習性があり、他のより健康に害のある薬剤依存のリスクも、高める可能性があります。

従って、そのうつ病に対する使用には、通常の薬剤以上に慎重である必要がありますが、この薬の長期持続する有効性と、一時的幻覚以外に目立った有害事象の見られない安全性は、これまでの抗うつ剤にはない性質のもので、今後の慎重な検証の結果に期待をしたいと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。著書に「誰も教えてくれなかったくすりの始め方・やめ方-ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ-」(総合医学社)などがある。

略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医

発表論文
・Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
・Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
・Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36
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