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2023.04.07

認知症の初期症状と経過との関連性【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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認知症の主な初期症状は「物忘れ」ですが、失語や道がわからなくなるなど他の症状が見られる場合もあります。初期症状の違いによって、その後の病状の進行に差はあるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、Alzheimer's & Dementia誌に2022年12月20日ウェブ掲載された、認知症の初期症状とその後の経過との関連についての論文です。これは科学系の報道記事で見つけたのですが、元の論文と称する物を見てみると、学会のポスター発表の採録でした。

興味深い内容なのでご紹介しますが、査読のある論文のようなものとは基本的に違いますので、その点はご理解の上お読みください。 

▼石原先生のブログはこちら

認知症の初期症状の違いは、その後の経過に影響するのか

アルツハイマー型認知症の初期症状は、多くは物忘れから始まります。

ただ、物忘れ自体は認知症ではない、生理的な老化においても見られる症状です。

たとえば、言葉が出なくなる失語や、知っている道で迷子になってしまう実行機能障害、物の真ん中や左右が分からなくなる視空間認知障害、などの病的な症状とはその質において違いがあります。

それでは、物忘れから始まる認知症と、他の症状から始まる認知症とでは、その経過において違いがあるのでしょうか?

初期症状に物忘れがあると、病状の進行が緩やか

今回の研究はアメリカにおいて、死体の解剖を行って確定診断された、認知症の事例2422例を対象としてその初期症状と症状経過との関連を比較検証しています。

認知症は、アルツハイマー型認知症と、レビー小体型認知症、両者の混合型認知症の、3種類が診断されています。

物忘れが初期症状であると、言語機能障害が初期症状であった場合と比較して、3種類いずれの認知症においても、有意にその進行速度が遅くなっていました。

また、初期症状が実行機能障害である場合には、アルツハイマー型認知症と混合型認知症において、初期症状が視空間認知機能障害である場合には、混合型認知症において、初期症状が物忘れである場合より、その進行が速くなっていました。

信頼性が高いデータなので、今後の研究に期待

つまり、物忘れが初期症状である場合は、それが生理的なものではなく認知症によるものであっても、その進行は緩やかである可能性が高く、その一方で失語など別の症状で始まる認知症は、より進行が早い可能性が高いという結果です。

このデータは診断が解剖所見である点で信頼性が高く、今後正式の査読のある論文の形で、発表されることを期待したいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36