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2023.07.24

熱中症かなと思ったら。重症度を見極める3つのポイント

kencom公式ライター:村岡祐菜

毎年夏になるとニュースで見かける熱中症。命に関わることもあるものの、具体的には何に気をつけたらいいのか分からない方もいるかもしれません。

今回は、経口補水療法の第一人者であり、飲水学を啓発、『いのちを守る水分補給』の著者でもある麻酔科医の谷口英喜先生に、熱中症を予防するための水分補給についてお話を伺いました。

谷口英喜(たにぐち・ひでき)先生

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神奈川県済生会横浜市東部病院患者支援センター長 麻酔科医師 医学博士
1991年、福島県立医科大学医学部卒業。神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授を経て、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長に就任。神奈川県立がんセンター麻酔科にて非常勤医師も勤める。東京医療保健大学大学院医療保健学研究科客員教授。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急学会専門医、日本静脈経腸栄養学会認定医・指導医、日本外科代謝栄養学会・教育指導医。学位論文は経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究。著書に『イラストでやさしく解説! 「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』(日本医療企画)、『いのちを守る水分補給: 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)などがある。

体の中で水は重要な役割を果たしている

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水は、体の中で酸素の次に重要だと言われている大切なものです。体の中で水が果たす役割は大きく3つあります。

①酸素や栄養分を体の隅々まで運搬する
②体に溜まった老廃物を尿や便として排出する
③体温を調節する

体の中に水が足りなくなると、酸素や栄養分、老廃物の運搬や体温調節がうまくできなくなり、体温がどんどん上がってしまって体のさまざまな機能に影響を及ぼしてしまうのです。

熱中症の初期症状としての脱水症状

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熱中症の話題が出たときによく聞く言葉として、脱水症状があります。脱水症状とは“体の中の水分が足りなくなること”です。熱中症以外にも、脱水症状はおう吐や下痢などさまざまな原因で起こります。とくに蒸し暑さにより脱水症状が発生した場合を熱中症と呼びます。

熱中症は、蒸し暑さにより汗をかいた結果、体の水分が足りなくなり、脱水症状を引き起こすことがきっかけで起こります。脱水症状の状態が長く続いたり、適切な水分補給がされなかったりすると重篤化し、体温調節がうまくできなくなって高体温になってしまうのです。

世代によって異なる、熱中症による脱水症状のサイン

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脱水症状が現れたときは、できるだけ早めに塩分入りの水分を摂取することが大切です。脱水症状のサインは年代によって異なるので、自分や家族の変化を素早く見極められるよう、チェックしておきましょう。

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小さな子どもは自分の異常に対して明確な意思表示が難しいため、いつもと違う様子があるときは注意が必要です。

高齢者は喉の渇きを感じるセンサーが鈍っているので、脱水症状になっても喉が渇きにくい傾向にあります。体のだるさや痛みを感じたら、早めに水分と塩分を補給することが大切です。

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普段の水分補給は水やお茶で問題ありませんが、脱水症状のときは塩分もセットで補給しましょう。

水は塩分と一緒に体の中から出ていくものです。ですから、脱水症状のときに水だけを飲むと、体の中の塩分が薄まって水中毒になってしまいます。水中毒では意識が朦朧とする、けいれんを起こす、体の力が入らないなど、脱水症状よりもさらに重篤な症状が起きるので注意が必要です。

脱水症状を感じたら、経口補水液やスポーツドリンクなどを飲むのがよいでしょう。

熱中症かなと思ったら。受診するべき3つのチェックポイント

熱中症は重篤化すると命に関わる危険があるため、場合によっては病院を受診する必要があります。自分で対処するか病院を受診するかの目安になるのが、「自力で水分補給をできるかどうか」です。

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どれか1つでもできないものがあれば、すぐに病院を受診しましょう。もし、意識が朦朧としているなら迷わずに救急車を呼んでください。意識がはっきりしているなら、水分と塩分を補給しながら病院へ向かいましょう。

普段からペットボトルを開けられない小さな子どもや高齢者の場合は、2と3が両方できるかどうかで状態を判断します。

なお、熱中症は重篤化すると体温調節がうまくいかなくなって体温が上昇しますが、体温計で測る温度と熱中症の重症度には関連がありません。体温計で測れる温度は体の表面の温度です。脱水症状を起こしているときは、血液が末端まで行き渡らないため、血液の温度は高くても表面の温度は低いことがあるのです。

あくまで「自力で水分補給ができるか」を基準にすることを覚えておきましょう。

熱中症にならないために

熱中症予防のために必要な水分量は?

熱中症の初期症状である脱水症状を予防するためには、普段から水分補給を行っておくことが大切です。1日に必要な水分量は人によって異なり、「体重(kg)×40mL」が目安となります。すべてを飲み物から取り入れるのではなく、半分を食事から、残りの半分を飲み物から取り入れるのが理想です。

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必要水分量:食べ物と飲水を合わせた必要な水分量全体
必要飲水量:飲水のみの必要な水分量

脱水症状を起こしているときは水分と同時に塩分も摂取する必要がありますが、普段の水分補給では塩分を摂る必要はありません。日本人の食事は基本的に塩分が多い傾向にあるので、3食きちんと食べられている場合は、必要な塩分量を食事から十分にまかなえているためです。

一気に飲むと体が水分を摂りすぎていると判断し、尿として外に出てしまいます。水分補給のポイントは、体の水分量が大幅に変わらないようこまめに摂ること。180mL(コップ1杯弱)の水分を1日8回にわけるようにして、こまめな水分補給を心がけましょう。

また、量を気にするのも大切ですが、運動したり大量の汗をかいた場合はその分を補充する必要があります。自分自身でモニタリングして、状況に応じた水分補給を行うことが重要です。

どんな飲み物を選んだらいいの?

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通常の水分補給に適している飲み物は、塩分や糖分が入っていないものです。塩分や糖分を含む飲み物は塩分の摂りすぎになったり、食欲が低下したりする原因になるので避けましょう。

なお「カフェインは利尿作用があるので水分補給にならない」とよく言われますが、一概に水分補給に適していないとは言えません。カフェインの利尿作用には個人差があり、よくカフェイン入りの飲み物を飲んでいる人は、利尿作用が出にくい傾向にあります。コーヒーを飲んでもトイレが近くならない方は、コーヒーも水分補給と考えて問題ありません。なお、アルコールはカフェインよりも強い利尿作用があり、水分補給にはならないので注意してください。

熱中症予防には十分な睡眠も大切

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熱中症を予防するには、適切な水分補給に加えて十分な睡眠も大切です。

体温を下げるためには、汗をかき、皮膚の表面の血管を広げて熱を逃す必要があります。そして、汗をかくときにも血管を広げるときにも、副交感神経が働いています。睡眠不足になると自律神経のバランスが乱れ、副交感神経がうまく働かなくなってしまいます。つまり、十分な水分補給ができていても、体温をコントロールできない状態になってしまうのです。ですから、水分補給だけでなく、十分な休養も意識することが大切なのです。

正しい水分補給で熱中症を予防しよう

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最も熱中症に注意しなければならない夏。何気なくやっていた水分補給も、正しい知識を持つだけで熱中症の予防につながります。水分補給の細かいポイントについては、先生の著書『いのちを守る水分補給』にも記載されています。気になった方はぜひ、先生の書籍もチェックしてみてくださいね。

■今回のお話を伺った谷口英喜先生の著書

『いのちを守る水分補給: 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』谷口英喜・著 評言社

『いのちを守る水分補給: 熱中症・脱水症はこうして防ぐ』谷口英喜・著 評言社

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著者プロフィール

村岡祐菜(むらおか・ゆうな)
薬剤師・フリーライター
千葉大学薬学部薬学科卒業後、薬局薬剤師として約4年間勤務後、ライターとして独立。現在は不定期で薬局薬剤師として現場に入りつつ、医療関連のコラム制作や取材記事の制作に関わる。専門知識を一般の方にもわかりやすく伝える文章を書くのが得意。

制作

監修:谷口英喜
取材・文:村岡祐菜

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