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2023.07.25

花粉症を治す唯一の方法、知っていますか?治療は長期目線で完治を目指す

kencom公式ライター:白石弓夏

環境省によると花粉症に罹患している人数は正確にはわかっていませんが、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査では日本人の約42%が花粉症であり、国内で最も多いアレルギー疾患として現在も患者数は増加し続けています。実際には受診するほどではないけど、症状に悩む人も多く、日本人にとって身近な病と言っても過言ではないでしょう。

今回は花粉症の治療や予防法、そしてよくある質問について福井大学医学部、耳鼻咽喉科・頭頸部外科助教である木戸口正典先生にお話を伺いました。

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木戸口正典(きどぐち・まさのり)先生

福井大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 助教/米国ノースウェスタン大学 医学部アレルギー免疫部門 客員研究員/耳鼻咽喉科専門医/臨床遺伝専門医
1985年生まれ、医師、医学博士。福井大学医学部を卒業後、国立病院機構東京医療センター、福井赤十字病院に勤務。筑波大学医学医療系遺伝医学に国内留学し、アレルギー疾患やゲノム医学の基礎を学ぶ。福井大学では、スギ花粉症の根本治療とされる舌下免疫療法の効果に関わる遺伝子型の研究をはじめ、難治性アレルギー性鼻炎(花粉症)や指定難病である好酸球性副鼻腔炎の原因、診断、新規治療法に関する研究など幅広く行っており、鼻アレルギー疾患の撲滅を目指している。現在は、米国シカゴ・ノースウェスタン大学医学部免疫アレルギー部門にて鼻アレルギー疾患の先端研究を行っている。

【治療】アレルギーの原因を発見し、生活から除去する

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花粉症の治療では、アレルギーの原因である花粉の暴露(=花粉にさらされること)を発見し、避けることが基本です。そして、薬物療法、手術療法、アレルゲン免疫療法を行っていきます。

花粉を避けて、除去

花粉症になった場合、まずは自分が何に対してアレルギーを持っているのかを調べてもらい、その花粉を避けるための行動をしましょう。

・花粉情報に注意し、飛散の多い時期・日(晴れて気温が高い、空気が乾燥して風が強い、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いたあと)の外出を控える。
・マスク(ガーゼや不織布マスク)やメガネをつける。
・毛足の長い織物、ウール製など、花粉が付きやすい衣服を避ける。
・帰宅時に衣服や髪から花粉をよく払ってから家に入る。
・帰宅後すぐに、洗顔、うがい、鼻をかむ。
・こまめに部屋を掃除する。

上記のように、花粉を避けて除去する生活を徹底するのが基本です。

薬物療法

治療のメインとなる薬物治療。現在、さまざまな薬の種類があり、効果が出るまでに時間がかかる薬、即効性のある薬、副作用が出やすい薬などがあります。

一般的によく使われる抗ヒスタミン薬は、飲み薬や注射薬、貼付薬もあります。その他に鼻噴霧ステロイド薬のようなスプレータイプの薬もあります。ただし、これは根本治療ではなく、いわゆる症状に対する対症療法です。患者さんの症状や仕事、生活習慣などを加味して、いくつか段階的に薬を試し、それでも症状が治まらない場合には、ほかの治療を考えます。

最近の新しい治療としては、生物学的製剤という炎症の原因であるアレルギー反応の元を抑える働きがある薬が出ています。重症の花粉症患者へ保険適応になってますので、従来の花粉症の薬が合わなかったという方は、医師に相談して試してみるのもいいでしょう。

手術療法

また従来の花粉症の薬が合わなかったという方は、鼻の中の形を整えたり、鼻の粘膜を整えたり、反応する神経を切ったりする手術も選択肢になります。

ただし、完治する治療ではないため、何年も効果が続く方もいれば、2〜3年で再発する場合もあります。こちらも薬物療法と同じく、症状を抑えるための対症療法です。

アレルゲン免疫療法

唯一、根本的に花粉症を治す治療は、アレルゲン免疫療法です。舌下免疫療法と皮下免疫療法の2つの方法があります。

アレルゲン免疫療法は、原因となる抗原エキスを体内に入れて抗原に対する反応を弱めていく方法で、平均して3〜5年の治療期間が必要になります。治療期間には、個人差があり、いつ終わりがくるかわからないことで治療をためらう人も少なからずいます。

最近では、舌下免疫療法の効果が遺伝子型によって異なることがわかってきています。実際の診療の場面での活用はこれからですが、追加研究を重ねて進めていけば、将来的には遺伝子を検査することで、どれくらいの期間、舌下免疫療法を続ければ、花粉症が治るのかが分かるようになるかもしれません。

アレルゲン免疫療法は、従来の薬物療法と併用可能です。短期的には薬で症状を抑え、長期的には完治に向けてアレルゲン免疫療法を続けていくことで、花粉症を克服することができるのです。

【予防法】できる限り生活から花粉を除去しよう

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花粉症は生死にかかわるほどの病気ではない一方で、日常生活に不便が出てしまう方も多い病です。花粉症は誰しも発症しうる病ですので、日頃から花粉を避けて除去することが重要です。

例えば、学生で外で部活をしている方のように野外の活動をしている方や森林伐採の仕事をしている方には花粉症の方も多いです。このように、職場や学校、住んでいる地域で花粉が多く環境が変えられない場合は、飛散の時期はマスクやメガネをつけたり、家の中に花粉を持ち込まない工夫が、花粉症の予防につながります。

長期の視点で花粉症を克服しよう!

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完治が見込めるアレルゲン免疫療法は、治療期間が長いことがネックです。ただ、例えば妊娠して薬が飲めなくなったり、運転する仕事について眠気が強い薬を使えなくなるなど、薬に頼れなくなることもあるかもしれません。

だからこそ、薬物療法や手術でその場限りの対処をするだけではなく、先を見越して計画的に治療を行うことが重要なのです。そして、その際は遠慮なく医師に相談して、自分に合った治療法を見つけていきましょう。

専門医に聞きたい!素朴なギモン

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最後に、木戸口先生に花粉症にまつわる素朴な疑問を聞きました。

Q.花粉症の薬は眠くなってしまうのが気になります。眠くならない薬はありますか。

A.眠気が出ない薬もあります。

日本でも多く使われている花粉症の薬が抗ヒスタミン薬ですが、個人差はあっても眠気が副作用として出やすい薬です。眠気が出やすい薬は症状の効果が高く、眠気が出にくいものは薬の効果はマイルドなものが多い傾向にあります。そのため、耳鼻科の医師としては薬の効果と眠気とのバランスを取りながら、許容できる範囲で薬を使っていきます。

または薬によって本人の体質と合う合わないもあるので、いくつか試しながら自分に合うものを探していくとよいでしょう。

Q.鼻のスプレー薬を使っていますが、だんだん効き目がなくなってきて困っています。

A.市販の点鼻薬は長期使用NGです。

市販の点鼻薬はいわゆる血管収縮剤が入っていることが多いのですが、添付文書を読んでいただくと「使用は1週間程度にとどめてください」などと書いてあり、連続使用できないようになっています。

血管を収縮する効果があるので即効性がありますが、効果は一時的。1日に何度も使用したり、毎日使い続けているとリバウンドを起こします。実は、薬剤性鼻炎で症状がぶり返してしまう、効き目がなくなってしまったという患者さんからの相談は意外と多いです。添付文書にあるように、一時的に短期間の使用を目的に、注意して使用してください。

Q.花粉症の民間療法について、飲み物やサプリなどを試しています。

A.正直、あまりおすすめできません。

さまざまな民間療法がありますが、科学的検証が行われているものは、ほとんどないようです。薬物治療や手術治療のように明確なエビデンスがなく、効果と安全性を理解した上で使うかどうかは、個人の判断ということになります。

耳鼻科医師としては、おすすめはできませんが、個人の自由で使っているものを無理に止めることもできません。心配であれば、かかりつけの医師に相談いただければと思います。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

白石弓夏(しらいし・ゆみか)
看護師・フリーライター
1986年生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟勤務中。

制作

監修:木戸口正典
取材・文:白石弓夏

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