2020.03.25
耳鼻科医が実践する正しい花粉症ケアとは
日本人の4人に1人が罹患している「スギ・ヒノキ」による花粉症。まさに今、多くの方が辛い時期を迎えています。対策の要は、「セルフケア」と「治療」の二つ。花粉症を長年研究をされている、ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック院長の永倉仁史先生に、先生が実践している花粉症対策を詳しく伺いました。
やるとやらないとでは大違い!自分でできる花粉症対策とは?
すでにシーズンの真っ最中ですが、それでもできる対策はたくさんあります。きちんと実践すれば、花粉が体内に入る量を1/6以下にまで抑えられるので、かなりの効果を実感できると思います。ポイントは、花粉が飛んでいる光景をイメージして、鼻や目に付着しないようにする行動をとることです。取り入れやすいものから、実践してみてください。
対策1 衣類で防御しよう!
■正しいマスクの使い方&選び方
鼻の中に入る花粉量は、通常のマスクであればマスクなしと比べて3分の1程度、花粉症用マスクであれば6分の1程度にまで抑えることができます。花粉の粒子は30ミクロンと比較的大きいので、高価なウイルス用の目の細かいマスクを買う必要はありません。安価な不織布の使い捨てのもので十分効果があります。大切なのは、顔とマスクの隙間を作らないこと。
ワイヤー入りのものは、顔の凹凸に合うようにワイヤーをしっかりと曲げて使いましょう。また、立体的なマスクはぴったりと顔の形に沿う形やサイズを選びましょう。1日使うと、花粉がマスクにたっぷりついているので衛生面もかねて処分しましょう。また、昔からあるガーゼタイプはあまり機能的にはよくないので、不織布のものがオススメです。
■メガネ
通常のメガネや伊達メガネでも、目に入る花粉量はメガネなしの半分程度になります。両サイドの隙間に保護カバーがついた花粉症用メガネであれば、1/3程度までカットできます。最近は、ファッショナブルな花粉用メガネも出てきているので試してみると良いでしょう。
■ヘアスタイル&帽子
髪の毛に付着した花粉は洗髪するまで取れないので、室内に入った後まで症状のもとになります。長い髪は下ろしていると広範囲に花粉がつくので、結んでおきましょう。更に、つばがあり、深めの帽子をかぶるとより効果的です。ニットキャップは、花粉が付着しやすいため避けましょう。
■ストール&手袋
見落としがちなのが首まわりと手。首まわりは花粉症皮膚炎を起こす方が多いですし、花粉のついた手で無意識に顔などに触れてしまう可能性があります。首にはストールを巻いたり、手袋をすると良いでしょう。手を頻繁に洗うことも大切です。
■上着
暖かい日でも外出時には薄手の上着を着用し、室内に入る前に脱ぐようにして花粉を入れないように心がけましょう。表面の素材は、手触りがツルツルした化学繊維のものか綿が良いでしょう。ただし、ウールやフリースは静電気が起きやすく花粉がくっつくので避けましょう。洗濯時に柔軟剤を使ったり、静電気予防スプレーを使用するのも効果的です。
対策2 花粉の侵入ルートを防ぐ
花粉の多い時期は、外出時に防備するだけでなく、いかに室内に花粉を持ち込まないか、入り込んだ花粉を早く除去するか大切です。これからお勧めする方法を実践すれば、家での家族全員の症状が軽くなる可能性があります。ぜひ、参考にしてみてください。
■花粉ルートをシャットアウトする4つのポイント
①窓を開けない
②部屋干しをする
③空気清浄機を活用する
④朝一番に床掃除
この時期は、なるべく窓を開けないこと。換気はなるべくエアコンを使い、窓を開けない方が安全です。開けるにしても、花粉の少ない時間帯に短時間で行うようにしましょう。レースのカーテンは閉じたままにしておくと、花粉の侵入を最低限に減らせます。また、部屋干しを基本にしましょう。また、室内の空気中を舞う花粉を除くには空気清浄機の使用が有効です。ただ、フィルターの掃除と交換はこまめにしましょう。床にはもっとも多くの花粉が存在します。夜間に床に落ちてきた花粉を、朝一番に濡れた布で拭いておくと更に効果的です。
■永倉先生オススメの花粉症対策法
①玄関に入る前に、外で上着と髪の毛や帽子についた花粉を払う
②上着を玄関にかけておく
③部屋に入る前にうがい&手洗い
④できれば入浴して全身の花粉を落とす
⑤部屋に入る
外から帰ってきた時は、服や髪、体についた花粉を室内に持ち込まないようにし、家族で上記のようなルールを決めておくことをお勧めします。花粉が多い日だけでも、家族全員でこの手順を実践すれば、リビングなどを快適な空間に保つ事ができます。小さな子供がいる場合は、現在アレルギー反応がなくても予防のために役立ちます。
対策3 加湿は◎ お酒は✖️
この時期は花粉症だけでなく、感染症予防のためにも加湿は大切です。乾燥したり、インフルエンザなどの感染症に感染してしまうと、鼻の粘膜を痛めてしまうので、花粉により激しく反応してしまいます。また、空気が湿っていると花粉が重くなって落下するので、床の掃除をすることで除去することができます。また、飲酒はほどほどにしましょう。お酒は血管を拡張し、鼻の周りが極端にうっ血するので、鼻づまりをひどくすることがあります。
花粉の時期を乗り切ったら、根本治療も検討しよう
今期の花粉シーズンを乗り切ったら、根本的な治療法「舌下免疫療法」を検討しても良いと思います。この治療は、約8〜9割の人に効果が認められていて、マスクをしなくてもよくなったり、薬を飲まなくてもよくなった人もいます。
免疫療法は、免疫システムが攻撃対象としているアレルゲンをあえて大量に体内に入れるうちに、徐々に体がアレルゲンの存在に慣れて、排除するための攻撃をしなくなり、アレルギー反応が抑えられていくという治療法です。年単位という時間をかけて体質改善を行います。
これまでは、通院して月に一回注射をする方法でしたが、最近では、毎日アレルゲンの成分を含んだ錠剤を口に含み、飲み込む方法の舌下免疫療法が主流になりつつあります。痛みなく自宅で行え、注射に比べて副作用も少なく、子供にも負担なく続けられるのが大きなメリットです。アレルゲンの種類は、スギ花粉とダニのみで、薬代は1000円〜2000円ほど。治療期間は3年以上が理想です。スギ花粉が終わったゴールデンウィーク明け頃から始めるのがオススメです。
セルフケアと治療で、賢く乗り切ろう!
耳鼻科医の先生が実践する、花粉対策はいかがでしたか?すべてを取り入れるのは難しそうだと感じたかもしれませんが、花粉が飛んでいる光景や、花粉が体や衣類に付着しているイメージをすると、自然と防御方法が身につく気がします。辛い方は早めに医療機関に相談し、「セルフケア」と「治療」で辛いこの季節を賢く乗り切りましょう!
永倉仁史(ながくら・ひとし)先生
ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック院長
【プロフィール】
昭和57年東京慈恵会医科大学卒業。国立成育医療センター・免疫アレルギー研究部にてアレルギー治療について研究。環境庁国立環境研究所研究員として、アレルギー性疾患増加の原因について、学位取得。文部科学省委託「スギ花粉症克服に向けた総合研究」に参加し、スギ・ヒノキ花粉症の調査に当たる。現在、最新の治療法として、ペプチド療法、舌下免疫療法などの研究に従事している。
著者プロフィール
■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。