メニュー

2023.07.18

花粉症の基本。辛い症状の原因は、免疫エラーだって知ってた?

kencom公式ライター:白石弓夏

環境省によると花粉症に罹患している人数は正確にはわかっていませんが、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査では日本人の約42%が花粉症であり、国内で最も多いアレルギー疾患として現在も患者数は増加し続けています。実際には受診するほどではないけど、症状に悩む人も多く、日本人にとって身近な病と言っても過言ではないでしょう。

今回は花粉症とはどのような病気なのか、その原因と診断方法について福井大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科助教である木戸口正典先生にお話を伺いました。

木戸口正典(きどぐち・まさのり)先生

記事画像

福井大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 助教/米国ノースウェスタン大学 医学部アレルギー免疫部門 客員研究員/耳鼻咽喉科専門医/臨床遺伝専門医
1985年生まれ、医師、医学博士。福井大学医学部を卒業後、国立病院機構東京医療センター、福井赤十字病院に勤務。筑波大学医学医療系遺伝医学に国内留学し、アレルギー疾患やゲノム医学の基礎を学ぶ。福井大学では、スギ花粉症の根本治療とされる舌下免疫療法の効果に関わる遺伝子型の研究をはじめ、難治性アレルギー性鼻炎(花粉症)や指定難病である好酸球性副鼻腔炎の原因、診断、新規治療法に関する研究など幅広く行っており、鼻アレルギー疾患の撲滅を目指している。現在は、米国シカゴ・ノースウェスタン大学医学部免疫アレルギー部門にて鼻アレルギー疾患の先端研究を行っている。

【基本】花粉症は、免疫反応エラーだった

記事画像

花粉症は、花粉がアレルギーの要因として症状を引き起こす病気。アレルギーは、体を守るための免疫反応のエラーと言われており、花粉に対して、免疫反応エラーが起こるとき、花粉症となります。

人間は、日常生活において、鼻や口から呼吸していますが、侵入してきた物質(抗原)や自分以外の物質を異物と判断すると、除去しようする動きがあり、一部の白血球が産生する抗体がその働きを担っています。そして、抗体と抗原との特異的な結合によって生じる反応を抗原抗体反応といい、この時アレルギー反応を引き起こすヒスタミンなどの化学物質が放出されます。この化学物質によって、鼻粘膜が刺激されてくしゃみや鼻水などが出ることで、これ以上花粉が体の中に入らないように反応しているのです。

花粉症はアレルギー性鼻炎の一種

花粉症は、アレルギー性鼻炎に分類されます。アレルギー性鼻炎のなかには通年性と季節性があります。

記事画像

■通年性アレルギー性鼻炎
ダニやハウスダストなどは、1年中症状があることから、通年性アレルギー性鼻炎といいます。1年を通して抗原があるので、症状も1年中現れることが多いです。

■季節性アレルギー性鼻炎
花粉症はアレルギーの原因となる花粉の飛ぶ時期にだけ症状が出るもので、これを季節性アレルギー性鼻炎といいます。それぞれアレルギーの原因となる花粉(抗原)が飛散する時期にのみ症状が現れます。

花粉症と診断される方は、通年性アレルギー性鼻炎の症状がある方も多いです。

50種類以上ある!代表的な花粉症の原因は?

花粉症はスギ花粉によるものが多くを占めますが、これまで日本で報告されてきた花粉症は実に50種類以上あります。代表的なのはスギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、シラカンバなどです。他にも以下のような種類の花粉があります。

・樹木の花粉→ハンノキ、オオバヤシャブシ、ケヤキ、コナラ、クヌギ
・草木イネ科→オオアワガエリ
・キク科→オオブタクサ、ヨモギ
・アサ科→カナムグラ

例えば、スギは地域によって飛散時期に差があるため、自分が住む地域でいつ頃、どのくらいの期間でスギ花粉が飛ぶのか知っておくことも大切。スギ花粉は北海道や沖縄にはほとんどありませんが、シラカンバの花粉は北海道に多いことがわかっています。

【原因】環境と遺伝、両方が関係している

記事画像

花粉症の原因となる物質(抗原)が鼻から体内へ入ることで症状が起きます。でも同じように生活していても、花粉症ではない人もいますよね。

その原因は、環境要因や遺伝的要因などさまざまなものが関係しており、多因子疾患と呼ばれています。花粉症では、主に環境要因が大きく、遺伝的要因がそれに加わるというものです。

花粉症について、よくバケツで例え話をします。個人はそれぞれにバケツを持っていて、遺伝的要因がある方は小さいバケツを、遺伝的要因があまりない方は大きなバケツを持っています。花粉による暴露(さらされること)を繰り返していくと、いつかバケツが溢れてしまうことで花粉症の症状が出ます。同じ環境にいて、同じだけ花粉にさらされていても、バケツが小さい人は発症しやすく、大きい人は発症しにくいわけです。

主な環境要因としては、花粉の暴露しやすい環境にあるか、住んでいる地域の花粉飛散状況が考えられます。またスギ花粉の特徴として、植林されて30年以上経つと花粉が増えるといわれていて、それが近年増えてきているわけです。これも近年花粉症の人が増えている原因のひとつといえるでしょう。

【症状】3大症状はくしゃみ・鼻水・鼻詰まり

記事画像

症状は抗原抗体反応によって神経や血管を刺激することで起こります。花粉症のなかでも一番多いスギの花粉の主な症状は3つです。

・くしゃみ
・鼻水
・鼻詰まり

他にも眼のかゆみや涙、充血などが症状として現れる場合もあります。

症状の起こり方は、くしゃみや鼻水が強い、鼻詰まりの症状が強い、複合して起こるなど人それぞれ。10〜30代が症状のピークでアレルギー反応が強く、高齢者では比較的症状が緩いのが特徴です。また、ヒノキの花粉は喉の症状が出やすく、喉のイガイガ感があります。このようにどの花粉に反応するかでも症状が変わり、人によっては複数の花粉に反応することもあります。

子どもが注意すべきアレルギーマーチ

記事画像

さらに、花粉症で蕁麻疹や皮膚のかゆみの症状が出ることもあります。特に子どもの場合は“アレルギーマーチ”といって、成長するにつれて、気管支喘息やアトピー性皮膚炎など、別のアレルギーも発症する可能性があります。

子どもの花粉症を疑う場合は、早めに医療機関に相談して、治療を進め、アレルギーマーチを最小限に抑えることが大切です。

生野菜や果物を食べたとき、口の中に異変があるなら要注意

記事画像

医学的には花粉症とは別の病気として捉えられていますが、花粉症とも少し関連した病気があります。これを口腔アレルギー症候群(OAS)と呼びます。食べ物(生野菜や果物)の原因物質と花粉症の原因物質の構造が似ているために、花粉症の方で生野菜や果物を食べたときに、口の中や喉のかゆみ、しびれ、腫れなどを起こすことがあります。

なかにはアナフィラキシーショックを引き起こす場合がありますので、もし上記の症状がある場合は、医師に相談したうえで、アレルギーの原因となる食品を避けるようにしましょう。

【診断】自分の症状などを記録して医療機関へ

記事画像

もし「花粉症かも」と思ったら、まずは医療機関を受診をしましょう。耳鼻咽喉科、もしくは眼科、アレルギー外来、内科でも相談可能です。

医療機関では、問診と診察が行われます。問診では

・いつ頃から症状がはじまったか
・症状が起こる時期
・どんな症状か
・症状の強さ
・他のアレルギーや持病の有無
・家族にアレルギーの人はいるか
・これまでどんな治療をしてきたか

などの確認がありますので、事前に記録していくと良いでしょう。

診察では実際に鼻の中の観察をしますが、花粉症では鼻の入り口にある突起物(下鼻甲介)にある粘膜が真っ白に腫れるため、そこで花粉症を疑います。合わせて血液検査(総IgE値、特異的IgE抗体検査)で抗体を調べるのが一般的な診断方法です。

以前は皮膚テストや誘発試験のように、実際アレルギーの原因となるものを少量皮膚や鼻の粘膜につけて判断することもしていました。しかし、患者への負担が高い検査で嫌がる患者さんも多く、近年では血液検査が簡便になったことで、問診と診察、血液検査で診断する医療機関が多いです。

なかには血液検査では反応が出ない、診断がつきにくい方もいるので、そうした場合には併用して皮膚テストや誘発試験をすることもあります。また「スギの近くで症状が出るけど、血液検査では“反応なし”の結果」という方も、誘発試験をすると陽性になることもあります。

また、病型や重症度、治療の経過をわかりやすくするために、患者さんに日記をつけてもらうこともあります。最近では、自分の鼻症状を記録するアプリなどもあり、記録がつけやすくなっています。

先に説明したように花粉症は50種類以上ありますが、血液検査ではすべての花粉について調べるわけではありません。まずは頻度が多いスギやヒノキなどを中心に調べますが、どの花粉が原因か特定できないこともあります。非常に稀ではありますが、そうした場合でも明らかに花粉症の症状があれば、問診でどういうときに症状が起こるか、生活や症状を詳しく聞いてみるとヒントがありますので、自分自身で記録を取っておき、医師に共有することで原因を推定できることもあるのです。

花粉の時期、くしゃみ・鼻水・鼻詰まりの症状が出たら医療機関へ

「市販薬などで様子をみたけど効果がなかった」「様子を見ていたら悪化した」などといって、病院を受診される方が多いといいます。もし花粉症かなと思ったら、自己判断せずに、まずは医療機関を受診して、本当に花粉症かどうかを診断してもらうこと。そして、自分の花粉症の原因と対処策をきちんと把握した上で、その後の花粉症との付き合い方を決めるのが安心です。相談の際には、自分の症状を記録したものを持参するのをお忘れなく。

記事情報

引用・参考文献

著者プロフィール

白石弓夏(しらいし・ゆみか)
看護師・フリーライター
1986年生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟勤務中。

制作

監修:木戸口正典
取材・文:白石弓夏

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード