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2023.06.17

胃薬がドライアイの点眼薬に!?世界を救うドラッグリポジショニングとは?【おくすりコラム】

kencom公式:薬剤師ライター・高垣 育

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新型コロナウイルス感染症の流行時に、既存の薬を見直して新しい効果を見つけ出すドラッグリポジショニング(既存薬再開発)に注目が集まったことをご存知でしょうか。一般的にはあまりまだ普及していませんが、今後も世界で加速するであろうドラッグリポジショニング。今回はドラッグリポジショニングとはなにか、私たちにどのような恩恵をもたらしてくれるのかをみていきましょう。

ドラッグリポジショニングとは

ドラッグリポジショニングは、すでに安全性や有効性が確認されている既存の薬や、開発中止した薬などに新しい薬効がないかを探し、実用化につなげていく薬を開発する方法のことです。

参考:製薬協ガイド2023
https://www.jpma.or.jp/news_room/issue/guide/index.html

参考:製薬協ガイド2023 https://www.jpma.or.jp/news_room/issue/guide/index.html

『製薬協ガイド2023』によると、医薬品の開発には9~16年もの長い期間と数百億~数千億円にもおよぶ莫大な費用がかかると言われていますが、新薬開発の成功率はわずか約25,000分の1ほど。気の遠くなるような確率でしか実用化には至りません。これは、人の命を守る医薬品だからこそ、安心安全が求められるから。新薬誕生の過程には、長い時間と多くの費用、そして製薬会社の努力があるのです。

このように苦労して作り出される新薬ですが、出願から20年経過すると特許が切れて独占販売期間が終了します。出願からすぐに販売が開始されるわけではないので、実際に製薬会社が販売できる期間は10年前後と言われ、新薬の特許が切れると製薬会社の収入が減少してしまい、中には薬の効き目があるのに製造が縮小してしまうことも。膨大な開発費がかかる新薬ですが、独占販売期間が終わり安価な後発医薬品が出回ると、開発費が回収できない懸念もあり、新薬開発への投資をためらわれる疾病分野もあると言われています。

薬が必要な人にとっては、安価で購入できるようになり一見嬉しいことのように思えますが、製薬会社が利益を得られない状態が続けば、私たちの健康を守るために必要な薬が開発できなくなり、病気になっても治療薬が存在しないということが起こる可能性があるのです。

開発期間と開発費用の節約になる

そこで、注目されているのがドラッグリポジショニングです。すでにヒトでの安全性や有効性の実績が確認された薬から新しい効果を見つける手法のため、ゼロから医薬品を開発するのに比べて時間や費用をおさえることができるという大きなメリットがあります。

世界では大手の製薬会社とAI創薬ベンチャーが連携し、ドラッグリポジショニングによって新薬を開発する動きがみられ、日本でもその動きが始まっています。

あなたの身近にあるドラッグリポジショニング

最近のドラッグリポジショニングの成功例といえば、新型コロナウイルスの治療薬が挙げられます。新型コロナウイルス感染症が流行した際に、1日も早い治療薬の開発が望まれていました。

このときにも新薬開発の方法としてこのドラッグリポジショニングが活躍し、エボラ出血熱の治療薬として開発されていたレムデシビルが新型コロナウイルス治療薬として特例承認されたことが記憶にある方も多いのではないのでしょうか。

そのほかにも身近な例で、病院で痛み止めをもらうと一緒に処方されることが多い胃薬『レバミピド(一般名)』から、ドラッグリポジショニングの手法によって、ドライアイの治療薬が生まれました。眼科でもらったことがある人もいるかもしれませんね。

いち早く有効な薬ができることで守られる命もある

もしも、また新型コロナウイルスのような感染症のパンデミックが起こり、早急な制圧を目指すような事態が起こったとき、感染症の脅威から私たちの命を守るためにメリットをもたらしてくれるドラッグリポジショニング。今後もこの方法を活用した新薬の開発は活発になりそうです。私たちの命を守るこの分野に期待しましょう。

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引用・参考文献

著者プロフィール

高垣 育(たかがき・いく)
2001年薬剤師免許を取得。調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、12年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。15年に愛犬のゴールデンレトリバーの介護体験をもとに書いた実用書『犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)』を出版。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行い、さまざまな媒体に寄稿している。17年には国際中医専門員(国際中医師)の認定を受け、漢方への造詣も深い。

制作

文:高垣育

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