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2023.06.22

老若男女に愛されるごはんのお供。京都の肉豆腐【ニッポン地元メシ#47】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

日本列島のほぼ中央に位置する京都府。794年に平安京が現在の京都市に当たる場所に遷都されてから1000年以上もの間、京都は政治のみならず、文化や宗教の中心地として大いに栄えました。さらに水陸共に交通網が整備されたことで、様々な物資が京都に流入するようになりました。

京都府は南北に長い地形で、中央部に位置する丹波山地を境として北は日本海型気候、南は内陸型気候に分かれます。北部は日本海に面していることからサバや丹後ぐじなどの魚介を使った郷土料理や、京野菜として100年近い歴史をもつ万願寺とうがらしが生産されています。南部に位置する山城地域では全国的に有名な宇治茶や、京野菜のえび芋を使った郷土料理があります。

このように長い間日本の中心として栄えた京都の郷土料理のひとつである、肉豆腐を紹介します。

肉の旨味が豆腐にじんわり染み込む肉豆腐

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/nikudofu_kyoto.html)

出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/nikudofu_kyoto.html)

全国的にも有名な肉豆腐は、実は京都の郷土料理です。牛肉、豆腐、ねぎを甘辛く煮込んだごはんにもお酒にも合うシンプルな煮込み料理で、メインの牛肉と京都には長い歴史があり、1310年に描かれた日本最古の和牛書『国牛十図(こくぎゅうじゅうず)』にも丹波牛(京都牛)が記されています。

また、京都には多くの豆腐屋が存在しますが、その理由のひとつには京都の生活用水は軟水でクセがなく、美味しい豆腐を作るのに適しているということが挙げられます。ねぎは京都の伝統野菜の九条ねぎを使います。

作り方は、煮たてただし汁に酒、砂糖、薄切り牛肉、食べやすい大きさに切った豆腐を入れさっと煮たあと、醤油とみりんを入れ弱火で10分ほど煮ます。最後に九条ねぎを加えて、軽く火を通せば完成。

通常の白ねぎであればしっかりと加熱しないとねぎ独特の辛味や繊維が残ってしまいますが、九条ねぎは緑の葉の部分を食べる葉ねぎであること、内部にぬめりがあり柔らかく甘みが多いことから短時間の加熱で美味しくまた色味がきれいに仕上がります。

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九条ねぎの歴史は古く、771年に伏見稲荷神社建立の際に秦伊呂具(はたのいろぐ)が浪速から取り寄せたねぎを植えたのが発祥ともいわれています。諸説ありますが、平安時代の九条付近で良質なねぎが栽培されていたことから、九条ねぎという名がついたともいわれています。

九条ねぎは冬に甘味が増して旬を迎えることもあり、肉豆腐は冬の料理とされていますが、現在では通年を通して栽培がされるためどの季節でもいただくことができます。

肉豆腐の栄養

牛肉、豆腐、九条ねぎといったとてもシンプルな食材から作られる肉豆腐ですが、実は栄養価が高い料理でもあります。

まずは牛肉。牛肉の中でも赤身の部分にはたんぱく質はもちろんですが、細胞の生まれ変わりを助ける亜鉛や貧血防止に欠かせない鉄を多く含みます。亜鉛や鉄は、普段外食が多い方や偏食、欠食気味の方は特に不足しがちなミネラルです。

豆腐はヘルシーな食材としても有名ですが、原材料に大豆が使われることから植物性のたんぱく質を多く摂ることができます。

九条ねぎの特徴は葉の部分を食べるということ。鮮やかな緑色はβカロテンによるもの。βカロテンは強力な抗酸化作用をもち、体内では必要な分だけビタミンAに変換されます。そのため、プロビタミンAとも呼ばれます。ビタミンAは粘膜の潤いを保つことでバリア機能アップに役立つほか、視覚機能を正常に保つのにも役立ちます。その他には抗酸化作用のあるビタミンC、丈夫な骨づくりに欠かせないビタミンK、元気な赤ちゃんを産むためにも妊娠期に欠かせない葉酸などが含まれます。

肉豆腐は甘辛い味付けで老若男女問わずに食べやすく、白米にも合う料理。遥か昔の日本で、忙しく過ごす京都の人を支えていたのは、必要な栄養がぎゅっと詰まり、誰もが美味しく食べられる肉豆腐などの郷土料理だったのかもしれません。

京野菜を使った郷土料理を楽しもう

千枚漬けに使われる聖護院かぶ、田楽でもおなじみの加茂なす、辛味がほとんどなく子どもでも食べられる万願寺とうがらしなど、京都には昔から栽培され続けている京野菜が数多く存在します。そして、それらは郷土料理として現在でも多くの家庭や料亭で楽しむことができます。歴史や文化はもちろんのこと、食の面からもぜひ京都を堪能してみてはいかがでしょうか。

『ニッポン地元メシ』連載は本記事で最終回となります。47回に渡りご愛読ありがとうございました。

引用・参考文献

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著者プロフィール

磯村優貴恵(いそむら・ゆきえ)
管理栄養士・料理家 
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

制作

文:磯村優貴恵

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