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2023.04.11

肺癌は手術法の違いで予後に差がでるのか?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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肺癌の手術では、病変部分を含み周囲を切除する方法が一般的ですが、その「周囲」はどの程度が適当なのでしょうか。

今回ご紹介するのは、the New England Journal of Medicine誌に、2023年2月9日掲載された、早期の肺癌に対する縮小手術の有効性についての論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

肺癌の手術で切除が必要な範囲とは?

肺癌はその組織から、大きく小細胞肺癌とそれ以外の非小細胞肺癌とに分類されます。

そして、非小細胞肺癌については、転移などにより困難な場合を除けば、手術により病変を切除することが第一選択の治療です。

特に臨床分類でT1N0という、腫瘍の大きさが3センチ以下で、腫瘍が肺の中に留まっていて、リンパ節の転移もない状態では、手術により腫瘍を周辺部も含めて切除することにより、高い生命予後が得られることが分かっています。

ただ、問題は腫瘍を含むどのくらいの肺組織を、切除するべきかということです。

大きな範囲を切り取るか、できるだけ小さな範囲にとどめるか

腫瘍が小さくても、肺葉切除と言って、腫瘍が存在する肺葉という大きな範囲を、丸ごと切除するという考え方があり、その一方で腫瘍周辺の一部のみを切り取る、縮小手術という考え方があります。

1995年に発表された有名な臨床研究があり、そこではT1N0の肺癌症例で、肺葉切除と縮小手術とを比較したところ、縮小手術をすると局所の再発が3倍に増え、死亡リスクが50%増加するという結果が得られています。(※2)

そのため多くのガイドラインにおいて、T1N0の非小細胞肺癌は肺葉手術が第一選択とされたのです。

ただ、当時はまだCTを施行したような肺癌検診は一般的ではなく、発見される肺癌の多くは2センチを超えていました。

従って、たとえば1センチ程度の肺癌のみを対象としても、肺葉切除をしなければいけないのか、という点については、検証の余地が残っていたのです。

2022年の研究では、両者に明確な差は無し

この疑問に対して先行的に臨床試験を施行したのは日本です。

2022年のLancet誌に発表された、JCOG0802という大規模な臨床試験の結果では、T1N0で大きさが2センチ以下の非小細胞肺癌の事例、1106例をくじ引きで2つの群に分け、肺葉切除と縮小手術に割り付けてその予後を比較したところ、生命予後に明確な優劣はありませんでした。(※3)

この研究では腫瘍の画像の、すりガラス陰影と充実性の部分の比率を、1つの判断の指標にしています。

初期の肺癌にて両者を比較調査

今回の研究はアメリカ、カナダ、オーストラリアの複数施設において、腫瘍の大きさが2センチ以下の非小細胞肺癌の事例、697例をくじ引きで2つの群に分けると、一方は肺葉切除を施行し、もう一方は縮小手術を施行して、中間値で7年の経過観察を施行しています。

その結果、先行する日本のデータと同様、観察期間中の死亡と再発を併せたリスクには、両群で明確な優劣は認められませんでした。5年生存率や総死亡も両群で同等でした。

その一方で残存肺機能については、縮小手術施行群が有意に高くなっていました。

縮小手術のほうが残存肺機能が高い

このように、画像の評価法や縮小手術の方法などについては、日本の研究と今回のものでは違いもあるのですが、基本的にT1N0の2センチ以下の非小細胞肺癌では、縮小手術がその予後において肺葉切除に劣らない、という知見は一致していて、これが今後のガイドラインにおいても、基礎となる知見となることは、間違いがないようです。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36