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2021.10.07

唾液でのPCR検査、感度と適応範囲はどれくらい?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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最近一般的に行われている唾液によるPCR検査は、鼻咽腔から検体を採取するより簡単で苦痛がないというメリットがあります。しかし、肝心の検査の感度はどうなのでしょうか。

当連載は、クリニックでの診療を行いながら、世界中の最先端の論文を研究し、さらにkencom監修医も務める石原藤樹先生の人気ブログ「北品川藤クリニック院長のブログ」より、kencom読者におすすめの内容をピックアップしてご紹介させていただきます。

今回ご紹介するのは、JAMA誌に2021年9月21日掲載されたレターですが、唾液のRT-PCR検査を、鼻腔の検査と比較した内容です。

▼石原先生のブログはこちら

RT-PCR検査の検体は、唾液でも有効か?

新型コロナウイルス感染症の診断において、スタンダードな検査は、RT-PCR検査によるウイルス遺伝子の検出であることは、間違いがありません。

この検査は鼻咽腔から検体を採取することが、世界的に標準的な手技ですが、最近では唾液の検査が簡便で患者に負担が少ないことより、日本では専ら行われています。

過去の検証において、有症状の感染の発症から9日以内くらいの期間においては、唾液による検査は鼻咽腔からの検体採取と、ほぼ同等の感度があることが報告されています。

ただ、無症状の感染においても、同様の有効性があるかどうかについては、それほど明確な知見があるという訳ではありません。

無症状の感染でも唾液で検査可能かを調査

今回の検証はアメリカにおいて、濃厚接触者の検査を鼻咽腔と唾液の両方で複数回施行し、その感度を比較したものです。

404名の対象者に、889回鼻咽腔と唾液の両方のRT-PCR検査を施行し、その比較を行なったところ、有症状の感染の症状出現から1週間の期間においては、鼻咽腔と比較した唾液の感度は、88.2%(95%CI:77.6 から95.1)であったのに対して、無症状の感染においては、58.2%(95%CI:46.3から69.5)という低率でした。

これは無症状感染の場合に、鼻咽腔の検査では陽性であっても、唾液の検査ではそのうちの58.2%しか、陽性ではなかった、ということを意味しています。

発症から2週間目の検査においても、有症状感染での鼻咽腔の検査と比較しての唾液検査の感度は、83.0%(95%CI:70.6から91.8)と高率でしたが、無症状では52.6%(95%CI:42.6から62.5)と低率でした。

無症状の場合は唾液検査の感度が低い

このように、有症状の新型コロナウイルス感染症では、発症後2週間くらいの時期において、唾液の検査は鼻咽腔の検査とそれほど遜色のない精度を持っていますが、無症状でウイルス量が少ないような場合には、その信頼性はあまりなく、唾液の検査で陰性であっても、無症状の感染は否定出来ないということが分かります。

無症状の濃厚接触者のRT-PCR検査は、原則唾液ではなく鼻咽腔から検体採取することが、今回の結果からは妥当であるようです。

▼参考文献

<著者/監修医プロフィール>

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36