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2023.01.13

高齢者に有効性の高い糖尿病治療薬は何か?【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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糖尿病には、心筋梗塞や脳卒中などの怖い合併症があり、それで命を落とす方も多いのだとか。
今回ご紹介するのは、JAMA Network Open誌に、2022年10月20日ウェブ掲載された、65歳以上の年齢における、糖尿病治療薬の心血管疾患予防についての有効性を比較した論文です。(※1)

▼石原先生のブログはこちら

心血管疾患のリスクを下げる糖尿病治療薬とは?

糖尿病の治療は血糖を下げることは勿論ですが、その全身的な合併症、特に動脈硬化の進行に伴う、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の予防に、近年では力点が置かれています。

糖尿病の患者さんの予後を最も左右しているのは、心血管疾患であるからです。

10年ほど前までは、血糖を低下させる薬は多くあっても、心血管疾患を明確に予防することが実証されているような治療は、実際には殆ど存在していませんでした。

それが2015年に、ブドウ糖を尿に排泄する作用のある、SGLT2阻害剤のエンパグリフロジン(ジャディアンス)を使用することにより、心血管疾患のリスクを低下し患者の予後を改善したとするデータが、New England…誌に発表されて注目を集めました。(※2)

その翌年の2016年には、GLP-1アナログの注射薬であるリラグルチド(ビクトーザ)で、同様のデータが同じNew England…誌に発表されて、再び大きな注目を集めました。(※3)

現状このSGLT2阻害剤とGLP-1アナログの2種類の薬剤が、心血管疾患を予防し、その予後を改善するデータを、明確に有している薬剤です。

ただ、そのどちらがより有効性が高いのか、というような点については、まだあまり明確なことが分かっていません。特に高齢者は心血管疾患のリスクが高まりますから、治療の必要性は高くなる一方で、副作用や有害事象も多くなるという特殊性があります。

エンパグリフロジン、リラグルチド、シタグリプチンを比較調査

今回の研究はアメリカの公的医療保険であるメディケアのデータを活用して、65歳以上の年齢層における、3種類の糖尿病治療薬の、心血管疾患リスクに対する有効性を比較検証しているものです。

対象となっている薬剤は、SGLT2阻害剤のエンパグリフロジンと、GLP-1アナログのリラグルチド、そしてDPP4阻害剤のシタグリプチン(ジャヌビアなど)です。
シタグリプチンは、これまでに明確な心血管疾患の予防効果は、確認されていない薬剤で、使用頻度が高いため比較対象となっています。

データは2つに分かれていて、まず年齢などをマッチングさせた、エンパグリフロジン使用者22894名を、同数のリラグルチド使用者と比較し、次にエンパグリフロジン使用者22812名を、同じくマッチングさせたシタグリプチン使用者と比較しています。

その結果、心筋梗塞と脳卒中、および総死亡を併せたリスクは、リラグルチド群とエンパグリフロジン群で、有意な差は認められませんでした。
一方で心不全による入院のリスクについては、エンパグリフロジンはリラグルチドと比較して、34%(95%CI:0.52から0.82)有意にリスクを低下させていました。

シタグリプチンとの比較では、エンパグリフロジンは、心筋梗塞、脳卒中、総死亡を併せたリスクを、シタグリプチンと比較して、32%(95%CI:0.60から0.77)有意に低下させ、心不全による入院のリスクも、55%(95%CI:0.36から0.56)有意に低下させていました。

それぞれの薬の効果には差が

このように今回の検証においては、エンパグリフロジンとリラグルチドは、心血管疾患や心不全のリスクにおいて、シタグリプチンより明確に優れた予防効果を示していました。
リラグルチドとエンパグリフロジンとの比較では、心血管疾患の予防効果については明確な差はなく、心不全による入院のリスクについては、エンパグリフロジンが上回っているという結果になっています。

これはこれまでの個々の臨床データから、ほぼ推定される結果ですが、実際の臨床データで確認された意義は大きく、今後の診療に活かせるものだと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36