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2024.02.01

「○○で糖尿病の予防!」というとっつきやすい情報に注意!正しく情報を解釈しよう!

Lumedia

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まとめ

●「〇〇を食べている人が糖尿病になりにくい」という話は、〇〇を食べると糖尿病の予防になるということではありません。
●糖尿病の予防には「適正体重」「運動」「禁煙」が重要です。
●テレビや SNS で拡散されやすい情報には注意しましょう。

「〇〇を食べていると・飲んでいると糖尿病になりにくい!・なりやすい!」という話はテレビや週刊誌、SNS などで多く聞くことがあると思います。ただ、それらの情報の受け取り方には注意が必要です。
実は世の中にあふれている「〇〇は糖尿病の予防に良い!」という話の殆どはガイドラインなどで推奨されておらず、予防方法としての根拠が乏しいです。この辺りの誤解はどのようにして生まれるのでしょうか?

今回は糖尿病と食べ物・飲み物の関連性についての情報をいくつか紹介し、それらの情報の解釈の仕方の注意点や、現時点で分かっている糖尿病を有効に予防する方法について勉強していきます!

この記事を書いた医師の名前

大坂 貴史(Takafumi Osaka)
医師 / 糖尿病専門医 / 医学博士

『糖尿病で不幸になる人を少しでも減らす』ために Twitter、YouTubeニュースレターで医学情報を発信しています。
趣味は料理とワイン。合氣道、居合道、弓道、有段者です。健康は筋肉!

【目次】
1.2型糖尿病と食習慣の関連性についての情報
 1.1.洋風の食習慣と2型糖尿病の関連性についての情報
 1.2.乳製品と2型糖尿病の関連性についての情報
 1.3.ナッツと2型糖尿病の関連性についての情報
 1.4.コーヒーと2型糖尿病の関連性についての情報
 1.5.お茶と2型糖尿病の関連性についての情報
2.これらの結果の解釈には注意が必要
 2.1.フレンチパラドックス
3.糖尿病に有効な予防法は「適正体重」「運動」「禁煙」

2型糖尿病と食習慣の関連性についての情報

洋風の食習慣と2型糖尿病の関連性についての情報

まずは洋食について、40〜75歳の42,504人の男性の医療従事者を対象としたアメリカの研究 (参考文献 1) を紹介します。この研究では研究の対象者にアンケートを行い、彼らの食習慣を2つの観点からスコア化しました。

●「健康への留意がされた食習慣」スコア (Prudent pattern score):野菜、果物、魚、鶏肉、穀物の消費が多いほど高い
●「洋風の食習慣」スコア (Western pattern score):赤身肉、加工肉、フライドポテト、高脂肪乳製品、精製穀物、お菓子やデザートの消費量が多いことが特徴
これらのスコアに加えて、運動習慣や喫煙、 BMI 等の指標もスコア化して解析を行った結果、次のような結果が得られました。

①洋風の食習慣を持つグループは、2型糖尿病になるリスクが高かった。
②洋風の食習慣かつ運動習慣が乏しいグループは、洋風の食習慣ではなく運動習慣があるグループと比べて、2型糖尿病になるリスクが高かった。
③洋風の食習慣かつ BMI の数値が大きいグループは、洋風の食習慣ではなく BMI の数値が大きくないグループと比べて、2型糖尿病になるリスクが高かった。

乳製品と2型糖尿病の関連性についての情報

乳製品は2型糖尿病をはじめとしたメタボリックシンドロームの予防に関連する可能性が報告されています。

41,254人の男性参加者を対象に、乳製品の摂取と2型糖尿病の発症例との関係を前向きに調べた研究 (※) を紹介します (参考文献 2) 。
※「前向きに調べる」とは、特定の集団について、その構成者たちがどのような経過をたどるか追跡して調査することをいいます。

この研究の12年間の追跡期間では、乳製品を比較的多く摂取しているグループは、そうでないグループに比べて2型糖尿病の発症割合が0.77倍と少なく、乳製品の総摂取量が1日1食分増えるごとに、2型糖尿病のリスクが 9% 低下していました (参考文献 2) 。
女性を対象にした同様の研究でも、同じような結果が報告されています (参考文献 3) 。

ナッツと2型糖尿病の関連性についての情報

ナッツの摂取が2型糖尿病のリスクを減らす可能性を示唆する報告があります。

83,818人の女性を対象とした研究では、ナッツの摂取量と2型糖尿病の発症割合に関する調査をしました。その結果、2型糖尿病の発症割合をナッツを週に1オンス (約 28 g) 未満しか食べないグループと比べたときに、週に1~4オンスのグループでは0.84倍、週に5オンス以上のグループでは0.73倍と、ナッツの摂取量が比較的多かったグループでは2型糖尿病の発症割合が少なかったと報告されています (参考文献 4) 。

コーヒーと2型糖尿病の関連性についての情報

コーヒーと2型糖尿病の関係についても報告があります。
コーヒーの摂取と2型糖尿病の発症についての9件の研究における193,473人分のデータを解析した報告を紹介します。

この報告では、2型糖尿病を発症した人の割合を、コーヒーの摂取量が1日0~2カップ未満のグループと比べたときに、1日4~6カップ摂取していたグループでは0.72倍、1日6杯以上のグループでは0.65倍と、コーヒーをより飲んでいたグループの方が少なかったことが報告されました (参考文献 5) 。

その後28件の研究の1,109,272人を分析した報告では、カフェインの有無に関わらず、コーヒーの摂取が一日一杯増えると、2型糖尿病の発症率が低下していたという観察結果が出ました (参考文献 6) 。

お茶と2型糖尿病の関連性についての情報

お茶についても報告があります。
40~65歳の日本人17,413人を5年間追跡した研究では、1日あたり6杯以上の緑茶を飲むグループは、1週間に1杯未満のグループと比べて、2型糖尿病の発症割合が0.67倍と少なかったことが報告されています (参考文献 7) 。

また、その後12件のお茶の摂取量と2型糖尿病の発症リスクの解明を目的にされた研究をまとめて、761,949人分のデータを分析した結果、お茶を飲まない人と比較すると、1日3杯以上のお茶を飲む人たちの2型糖尿病発症リスクは0.84倍であったとされています (参考文献 8) 。

これらの結果の解釈には注意が必要

ただ、これらの結果の解釈について注意しないといけないのは、「〇〇を飲んでいる・食べている人は糖尿病になりにくかった」ということと、「〇〇を飲むと糖尿病の予防になる」ということは全く違うということです。

例えば、先ほどの「コーヒーと2型糖尿病の関連性」についての情報だけでは、「コーヒーそのもの」が糖尿病の発症に影響しているのか、「コーヒーを沢山飲む人に共通した習慣」や「コーヒーを飲む人に共通の背景 (収入や健康意識など) 」が影響しているのかがわからないですよね。

フレンチパラドックス

有名な話は「フレンチ・パラドックス」という話です。これは「フランス人は他のヨーロッパ諸国の人々よりもチーズやバター、肉などの動物性脂肪の摂取量が多いにもかかわらず、動脈硬化の患者が少なく、心臓病の死亡率も低い。」というもので、この理由としてフランス人はワインを良く飲むからという説明が当時なされていました。

現在は、ワインをあまり飲まない人はよく飲む人に比べて、年齢が高く、男性・喫煙者である可能性が高く、運動量が少ない傾向があるなどの事がわかっており、純粋にワインそのものの健康効果があるわけではないと考えられています(参考文献 9)。

このような視点を持たずに「コーヒーと2型糖尿病の関連性」についての情報に触れると、「コーヒーを飲んだら糖尿病予防できるのかなぁ」と思ってしまいがちですが、この受け取り方をした方は要注意です。

コーヒー以外にも、この記事で紹介したような糖尿病に関する情報に触れると、「〇〇で糖尿病予防!」のようなパターンで勘違いしてしまうことがあるので、この記事を読んだ皆さんは注意してくださいね。

残念ながら今回のような情報だけでは、「2型糖尿病の予防のためにナッツや乳製品コーヒーやお茶を積極的に取りましょう」とはならないのです。

糖尿病に有効な予防法は「適正体重」「運動」「禁煙」

もちろん、好みの範囲でこれらの食べ物・飲み物を摂るのは問題ないですし、砂糖入りの飲み物の代わりにコーヒー (無糖) やお茶を飲むことは、体重や血糖値などの関連からもメリットがあります。

しかしながら、2型糖尿病の予防で有効であるとされているのは「適正な体重」「運動」「禁煙」です。くわしくは以前のこちらの記事をご参照下さい。情報を正しく受け取ることが重要です。

COI

本記事について、申告すべき COI はありません。

COIの開示基準については、日本内科学会の『医学研究の利益相反(COI)に関する共通指針』に準じています。より詳細はこちらをご覧ください。

参考文献

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