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2023.01.06

しっかり摂ろう!ビタミンDの摂取不足が病気リスクを高める【kencom監修医・最新研究レビュー】

kencom監修医:石原藤樹先生

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栄養バランスの良い食生活は健康には必要不可欠ですが、その中でもビタミンDは不足すると健康を害するという研究があるようです。
今回ご紹介するのは、Annals of Internal Medicine誌に2022年10月26日掲載された、ビタミンDの欠乏と生命予後との関連についての論文です。

▼石原先生のブログはこちら

ビタミンDが不足すると病気になる?

ビタミンDはビタミンという名前は付いていますが、体内でも合成されるステロイドホルモンの一種で、骨の健康な成長と維持に必須であると共に、細胞の成長や分化を調節して、細胞の健康についても必要な成分であると考えられています。

実際にビタミンD濃度が低値であると、心血管疾患のリスクや癌のリスク、総死亡のリスクが増加するとする報告があります。

その一方でビタミンDをサプリメントとして使用したような、介入試験と呼ばれる臨床試験の多くでは、ビタミンDによる病気のリスク低下や、生命予後の改善効果は確認されていません。

この事実は、ビタミンDの低値と病気のリスクとの関連のデータは、ビタミンDの欠乏自体が原因ではないことを示唆するもののようにも考えられます。

実際はどうなのでしょうか?

ビタミンDが不足するほど死亡リスクはアップ

今回のデータはUKバイオバンクという、最近使用されることの多い、イギリスの大規模な遺伝子情報を含む臨床データを活用したもので、イギリスなどに住む約30万人の遺伝情報から、血液のビタミンD濃度に関わる変異を解析。

そこから推計される血液中のビタミンD(25(OH)D)濃度と、14年という長期の観察期間における、病気のリスクや生命予後との関連を検証しているものです。

これはビタミンDを補充するような試験とは違いますが、遺伝子変異の有無は偶然に決まる性質のものなので、このデータにおいてビタミンDの低下が、特定の病気のリスク増加と結びついていれば、そのリスク増加はビタミンDの低下が原因の可能性が高い、という言い方が出来ると言う点で、これまでの同様の検証より信頼性の高いものなのです。

その結果、遺伝情報から推計されるビタミンD濃度が低いほど、総死亡のリスクは増加していました。

現行の基準でビタミンD欠乏のボーダーラインと判断される、25(OH)ビタミンD濃度50nmol/L(20ng/mLに相当)と比較して、軽度の欠乏と判断される25nmol/L(10ng/mLに相当)では、総死亡のリスクは25%(95%CI:1.16から1.35)有意に増加していて、高度の欠乏である10nmol/Lでは、総死亡のリスクは6.0倍(95%CI:3.22から11.17)に達していました。

個々の病気による死亡リスクで見ると、同じく25(OH)ビタミンD濃度50nmol/L(20ng/mLに相当)と比較して、軽度の欠乏と判断される25nmol/L(10ng/mLに相当)では、心血管疾患による死亡のリスクが1.25倍(95%CI:1.07から1.46)、癌による死亡のリスクが1.16倍(95%CI:1.04から1.30)、呼吸器疾患による死亡のリスクが1.96倍(95%CI:1.88から4.67)有意に増加していました。

高度の欠乏である10nmol/Lでは、心血管疾患による死亡のリスクが5.98倍(95%CI:1.73から20.59)、癌による死亡のリスクが3.37倍(95%CI:1.37から8.28)、呼吸器疾患による死亡のリスクは12.44倍(95%CI:4.32から35.85)と、より高いリスク増加を示していました。

ビタミンD不足は病気リスクにも悪影響

このように、今回の大規模な検証において、ビタミンDの欠乏が身体に非常に大きな影響を与え、個別の臓器の疾患のリスクを高め、総死亡のリスクにも影響を与えることが、ほぼ明らかになりました。

今回のデータで指標とされている、血液中の25(OH)D濃度は、健康保険でも施行可能な検査ですが、保険適応や骨粗鬆症や骨軟化症での測定に限られています。その基準値は日本と海外とで異なっている部分もあり、今後欠乏の基準値の検討を含めて、その血液濃度の意味合いが整理され、一般臨床においても、より広く測定可能となることを期待したいと思います。

記事情報

参考文献

著者/監修医プロフィール

■石原藤樹(いしはら・ふじき)先生
1963年東京都渋谷区生まれ。信州大学医学部医学科、大学院卒業。医学博士。研究領域はインスリン分泌、カルシウム代謝。臨床は糖尿病、内分泌、循環器を主に研修。信州大学医学部老年内科(内分泌内科)助手を経て、心療内科、小児科を研修の後、1998年より六号通り診療所所長として、地域医療全般に従事。2015年8月六号通り診療所を退職し、北品川藤クリニックを開設、院長に就任。2021年には北品川藤サテライトクリニックを開院。著書多数。
・略歴
東京医科大学地域医療指導教授/日本プライマリ・ケア連合学会会員/医師会認定産業医/医師会認定スポーツ医/日本糖尿病協会療養指導医/認知症サポート医
・発表論文
-Differential metabolic requirement for initiation and augmentation of insulin release by glucose: a study with rat pancreatic islets. Journal of Endocrinology(1994)143, 497-503
-Role of Adrenal Androgens in the Development of Arteriosclerosis as Judged by Pulse Wave Velocity and Calcification of the Aorta. Cardiology(1992)80,332-338
-Role of Dehydroepiandrosterone and Dehydroepiandrosterone Sulfate for the Maintenance of Axillary Hair in Women. Horm. Metab.Res.(1993)25,34-36