メニュー

2023.01.12

同じ県内で味付けや具が違う!?山形県の「芋煮」の魅力とは【ニッポン地元メシ#36】

kencom公式:管理栄養士・磯村優貴恵

日本海に面する東北地方のひとつ、山形県。県名の由来は、今の山形市の南側を「山方(やまがた)郷」と言ったことに由来があるといわれています。その由来からもわかるように、山形県には月山、日本百名山のひとつである蔵王山、鳥海山、吾妻山と名だたる山々が連なっています。

そしてもうひとつ、山形県といえば俳人・松尾芭蕉が奥の細道の旅路の中で、3分の1にあたる43日間をも過ごしたのだそう。有名な句のひとつ「閑かさや岩にしみいる蝉の声(しずかさや いわにしみいる せみのこえ)」は、山形市の立石寺で詠まれ、「五月雨をあつめて早し最上川」にも登場する最上川は、山形県を代表する一級河川のひとつです。

そんな山形県はおいしい食材の宝庫でもあります。今や高級ブランドとなっているさくらんぼ「佐藤錦」をはじめ、米どころ東北地方ならではの「はえぬき」や「つや姫」といったおいしいお米、その他にも、だだちゃ豆(枝豆)や総称山形牛、銘柄豚肉が有名です。

今回は山形県の代表的な郷土料理、「芋煮」を紹介します。

芋煮とは?

出典:山形県公式観光サイト やまがたへの旅

出典:山形県公式観光サイト やまがたへの旅

芋煮の発祥は諸説ありますが、1600年代半ば、江戸時代までさかのぼります。

最上川舟運の最終地である中山町は、京都や大阪から酒田経由でものを運ばれ、取引が行われる場所でした。当時は今のように正確な位置情報を知る手立てもなかったため、荷物がいつ到着するか正確な時間がわかりませんでした。また、川下から川上へと舟を動かすための風を待つ必要があるなど、とにかく待ち時間が長かったそう。

そこで船頭たちは荷受人を待つ間、マダラの干物である棒鱈や近所で良く獲れる里芋を使って鍋で煮て食べていました。これが芋煮の始まりという説があります。

現在では芋煮には牛肉が使われていることが多く、それは昭和の初め頃からだそう。また、同じ山形県でも地域によって味付けや具材が異なるというのも興味深い点です。

地域によって特徴がある芋煮

芋煮のメイン食材は里芋です。皮をむいた里芋と、ひと口大にちぎってアクを抜いたこんにゃくを水から煮て、柔らかくなったら牛肉やネギを入れ、酒、しょうゆ、砂糖などの基本的な調味料で味を調えます。

同じ山形県でも、地域によって異なる特徴を持つのが芋煮の魅力です。

・最上地方:味噌味としょうゆ味が混在。色々なきのこが入っているのが特徴。
・庄内地方:養豚が盛んということもあってか肉は豚肉。味付けは味噌味。
・村山地方:肉は牛肉でしょうゆ味。シメはカレーうどんにするのが定番。
・置賜地方:肉は牛肉でしょうゆ味。大きめに切った木綿豆腐を入れるのが特徴。

芋煮はどのような栄養が摂れるの?

芋煮で使用する里芋の特徴といえば、ぬめり!このぬめりは水溶性食物繊維の一種です。

水溶性食物繊維は、腸内で良い働きをする菌のエサとなったり、糖質の吸収を緩やかにすることで食後の血糖値の急激な上昇を抑えたり、さらに余分なコレステロールを吸着して出すといった嬉しい働きがあります。

水溶性食物繊維はこんにゃくの材料となるこんにゃく芋にも含まれていますので、芋煮は水溶性食物繊維がたっぷり摂れる嬉しい1品です。

また、芋類はカロリーが高いイメージがありますが、里芋可食部100gあたりのエネルギーは53kcalです(皮つきサツマイモ100gあたりのエネルギーは127kcalなので、半分以下)。脂質は0.1g、食物繊維は2.3gですのでヘルシーな食材であることがわかります。

さらに芋煮はネギなどもたっぷりと使われていますので、普段野菜や果物をあまり食べず、食物繊維が不足しがちな方にとってはオススメの料理!

その他、牛肉の赤身の部分にはたんぱく質はもちろん、鉄や亜鉛といったミネラルも含まれます。ミネラルは偏った食生活で不足しがちな栄養素です。これだけシンプルな材料でありながら、私たちが元気で過ごすために必要な栄養素がしっかり詰まっているのは嬉しいですね。

そしてごはんにもお酒にも合う味付けなので、子どもから大人まで幅広い世代が美味しく食べられるというのも魅力ではないでしょうか。

芋煮会で心の栄養もフォロー!

出典:山形県 やまがたの広報写真ライブラリー

出典:山形県 やまがたの広報写真ライブラリー

芋煮は秋の訪れとともに全国ニュースで取り上げられることも多く、その理由が「日本一の芋煮会フェスティバル」の存在です。毎年9月中旬頃に開催されるイベントで、6メートルを超える大きな鍋に3トンもの里芋や1.2トンもの牛肉を使用して作られます。

そのこだわりは、里芋、牛肉、ネギ、水に至るまで山形県産のものを使用するということ。そしてこれだけ大きな鍋の中を混ぜ合わせるのは通常の調理器具では難しいため、専用のショベルカーで混ぜる点もこのイベントの特徴です。

ここ数年は多人数で鍋を囲むというのがむずかしい状況でもありますが、みんなで一緒に食べるというのは「共食」といい、コミュニケーションの場になるのはもちろん、食事をより美味しく楽しくするための大切な要素です。

待ち時間をしのぐために始まったといわれる芋煮ですが、食卓を囲んで美味しくいただける点、地産地消で食材の無駄がない点、厳しい冬に向けて元気をチャージできる点が、今もなお芋煮が愛され続ける秘訣なのかもしれませんね。

記事情報

参考文献

1.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/area_stories/yamagata.html)
2.農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/imoni_yamagata.html)
3.山形県Webサイト(https://www.pref.yamagata.jp/documents/17619/norari10hp-p16-p17.pdf)
4.山形県Webサイト(https://www.pref.yamagata.jp/020026/kensei/joho/koho/mailmag/shundayori/imoni.html)

著者プロフィール

記事画像

磯村 優貴恵(いそむら・ゆきえ)
管理栄養士・料理家 
大学卒業後、大手痩身専門のサロンにて管理栄養士としてお客様の身体をサポート。その際に具体的な料理提案の必要性を感じ、飲食店の厨房にて約3年間の料理修行を行う。
その後、特定保健指導を経て独立。現在は、茶道教室にて茶事講座や茶事での茶懐石の献立提案~調理を行うほか、子供から大人まで家族みんながおいしく食べられて健康になれるよう、レシピ・商品開発や執筆など幅広く活動中。

制作

文:磯村 優貴恵

あわせて読みたい

この記事に関連するキーワード