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2022.03.28

生活習慣病予防にも。日本人のほとんどが不足する「食物繊維」の話

kencom公式:管理栄養士・前田 量子

栄養成分の中でもなじみ深い「食物繊維」。便秘がちの方だと普段から気にして摂っている方もいるのではないでしょうか。

しかし現代の食生活では、ほとんどの日本人が摂取不足だということを知っていますか?

日本人のほとんどの人が食物繊維不足

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日本人の平均食物繊維摂取量は、1950年頃には一人あたり20g/日を超えていました。しかし近年は穀類・いも類・豆類の摂取量が減っているのと同時に、食物繊維摂取量も減少傾向にあります。

厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、一日あたりの「目標量」(生活習慣病の発症予防を目的として、現在の日本人が当面の目標とすべき摂取量)は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上としています。
しかし一番多く摂っている年代(男女ともに50~64歳)でも男性は15.76g、女性は15.86gとなっており、他年代でも平均で14g前後と不足しがち。(※)

食物繊維は、身体に絶対的に必要な栄養素とはされていませんが、前述したように生活習慣病の予防・健康維持に深く関与していることから積極的に摂るべきといえるでしょう。

※「日本人の食事摂取基準」(P157)より、平成28年国民健康・栄養調査に基づく

食物繊維とは

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食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されています。

以前は「食べ物の役に立たない部分」として評価されていませんでした。しかし現在では研究が進み、食物繊維摂取量と主な生活習慣病の発症率または死亡率の関連を検討した疫学研究のほとんどで、負の相関(摂取量が多い方が発症率・死亡率が下がる)が見られる貴重な栄養成分であることが分かっており、「第六の栄養素」と言われるほどになっています。

2つの食物繊維とその効果

食物繊維は多くの種類がありますが、大きくは水に溶けない「不溶性食物繊維」と水に溶ける「水溶性食物繊維」に分けられます。

不溶性食物繊維

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不溶性食物繊維には、セルロース(穀類・豆類・野菜)、ヘミセルロース(穀類・豆類・野菜・海藻類)、ペクチン(野菜・未熟果物)、リグニン(豆類・穀類のふすま・野菜・ココア)、イヌリン(ゆりね・きく芋、ごぼう)、キチン(きのこ、カニ、海老の殻)などがあります。

胃や腸で水分を吸収して大きく膨らむ性質があり、便の量を増やし、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)運動を促し、腸内に発生した有害物質の排泄や便通を促進する作用があります。
また、水溶性食物繊維よりは低いものの、同じく腸内環境を整える整腸効果があります。

さらに上記であげたように、よく噛まないとならない食品に含まれる性質があります。咀嚼回数が増えることで満腹感を得やすく、食べ過ぎ防止や、あごの発育を促進することで歯並びをよくするといった効果も期待されています。

水溶性食物繊維

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水溶性食物繊維にはペクチン(果物、特にりんごや柑橘類の皮・野菜)、グルコマンナン(こんにゃく)、アルギン酸(昆布・わかめ)、グアガム(ある種のマメ科の植物)などがあります。

腸内で水を抱え込み粘着性のゲル状成分となり胃腸内をゆっくり移動するので、お腹がすきにくく、食べ過ぎを防ぐ効果があります。また、糖質の吸収を緩やかにする作用があるため、血糖値の急激な上昇を抑えてくれ、糖尿病の予防が期待されています。

胆汁酸やコレステロールを吸着し体外に排泄する作用もあるため、脂質異常症(高脂血症)の予防も期待されていたり、大腸内で発酵・分解されることでビフィズス菌などが増えるため、腸内環境の改善も促せます。

もっと食物繊維を取るための工夫

前述した値を参考にすると、男性は5~6g、女性は3~4gほど食物繊維が不足していることがわかります。

現在の平均摂取量から見ると「一気に5g増やそう」というのはかなり大変な数値であることが分かると思います。
そこでまずは一日3~4gプラスすることを目標にするとよいでしょう。

シニア世代が上手に食物繊維を摂る秘訣

食物繊維は生活習慣病の予防に効果が期待できる栄養素。となればシニア層にはより積極的に摂取していただきたいものです。

ここでは特にシニア層に向けて、摂取量を増やしやすい方法をご紹介します。

調理法を工夫する

食物繊維は歯ごたえがあるもの、消化に時間がかかるものが多いのが特徴です。そのためシニア層には負担になることも。

歯ごたえがあるものは、生よりもやわらかく煮た料理にすることで食べやすくなり、消化もよくなります。煮ることで食物繊維が煮汁の中に溶け込んでいくので、汁ごと食べられるスープが理想的です。
また野菜は煮ると小さくなる傾向がありますので、生のままよりもたくさん食べられます。
スープは水分に味がついていれば美味しく感じやすい、という法則があるので、具たっぷりの汁物は塩分を下げられるというメリットもあります。

主食を変える

主食の穀類も大切な食物繊維の摂取源。

一日のうち1食の主食を白米から玄米に変える、または麦やオートミールをプラスする、食パンを全粒小麦パンなどに置き換えるなどで食物繊維摂取量は増えるものです。

食物繊維が多い食品を意識して摂る

食物繊維がたくさん含まれ、一回あたりに食べる重量が多い食品を意識しましょう。

たけのこやごぼう、さつまいも、切り干し大根、ひじき、かぼちゃ、ブロッコリー、モロヘイヤ、納豆、おから、しいたけ、きのこ類は、おおよそ1食あたりに摂取する量の中に食物繊維が2~3gも含まれています。これらを意識的に摂りいれてみましょう。

こうした食品を使った小鉢を毎食最低一品は用意する、を目標にするだけでも変わってきます。

いろいろな食品を摂りましょう

シニアがかかりやすい症状のひとつに便秘があります。

この記事を読んで「便秘予防のために不溶性食物繊維をとろう!」と思って下さる方もいらっしゃると思います。しかし、不溶性食物繊維ばかり摂ると便をかたくしてしまい、結果便秘を悪化させてしまうことがあります。
そこで大切なのが、便を軟らかくする働きがある水溶性食物繊維です。

食物繊維もやはりバランスが大切です。いろいろな食品を摂ることがバランスをよくする秘訣です。また、健康は1日にして作られるものではありません。日々の食事で食物繊維を意識し、健康に過ごしましょう。

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前田 量子(まえだ・りょうこ)

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管理栄養士 野菜ソムリエ ロジカル調理研究家。
著書『ロジカル調理』『ロジカル和食』『考えないお弁当』をはじめ、電子レンジの加熱時間や法則を書いた『ロジカル電子レンジ調理』が2022年2月に発売。調理科学で普段のもやもや悩みをすっきり解決 。スーパーの食材で本当に美味しく&家族が楽しみにしてくれる定番家庭料理を作れるようになる料理教室主宰。