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2021.12.29

検診で見つからない子宮体がん。早期発見のコツと最新予防法【子宮体がん・後編】

kencom公式ライター:森下千佳

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子宮体がん(子宮内膜がん)は確立された検診法がありません。では、どうやって早期発見すればよいのか?絶対に知っておきたい子宮体がんの早期発見のコツと治療法、最新の予防法を、相模野病院婦人科腫瘍センター顧問の上坊敏子先生に聞きました。

早期発見のためには、「不正出血」を見逃さない!

子宮体がんの早期発見は、とにかく【不正出血】を見逃さないこと!

子宮体がんは多くの場合、月経以外の時に出血がある「不正出血」が現れます。これは、がんを見つける上で絶対に見逃してはいけない症状です。明らかな出血でなくとも「おりものに血が混ざる」、「おりものが茶色っぽい」などの変化にも注意してください。20代、30代の若い女性でも、不妊症や排卵障害と診断された場合の不正出血は要注意です。40代後半後半なら、1年間月経がない状態が続くと「閉経」と見なされますが、閉経後や閉経間際の出血は特に気をつけましょう。

不正出血は、ストレスや疲れなどによるホルモンバランスの乱れによっても起こりますが、子宮体がんをはじめ、子宮頸がん、子宮頸管ポリープ、子宮筋腫などの病気が隠れている可能性があります。出血の量や回数が少ないからといって、病気でないとは言い切れないので、自己判断をせずに婦人科できちんと原因を調べておくことが大切です。

40〜50代の女性は要注意!

なかでも、特に気をつけて欲しいのは40代後半〜50代前半の更年期の方です。閉経前後は月経が不規則になるため、不正出血なのか、月経なのかの見分けが付き辛く、「更年期だからこういう事もあるかな」と思い込み、見過ごされてしまうケースがよくあります。

更年期だから不正出血があっても大丈夫ということはありません。不正出血が更年期のホルモンバランスの乱れによるものなのか、子宮体がんによるものなのかは、検査をしなくては判断できません。自己判断をしないようにしましょう。また、閉経前後は、体調が大きく変化する時期です。婦人科のかかりつけ医をもち、不正出血がなくとも、定期的に子宮や卵巣のチェックを受けることをお勧めします。

出血があっても受診をためらわない!心配事はハッキリと医師に伝えよう!

「出血がある時に受診すると、医師に失礼じゃないか?」と思い込み、出血が終わるのを待ってから受診される方がいらっしゃいますが、その必要はありません。実際の症状がある時に受診していただかないと、出血の状態、出血している部位などが正確に判断できません。遠慮をせずに、症状がある時に受診していただきたいと思います。

また、受診の時は、ご自身から医師に「子宮体がんが心配です」と、心配事をはっきりと伝えることも早期発見に繋がるカギです。子宮体がんに限らず、婦人科の病気の一番重要な症状は不正出血です。何か体の異変を感じた時は、気軽に婦人科に相談してほしいと思います。

子宮体がんの検査

子宮の入り口から、子宮内に細いチューブやブラシのような器具を挿入して、子宮内膜の細胞を採取し、がん細胞があるかどうかを顕微鏡で調べる「子宮内膜細胞診」が一般的です。数分で終わる検査です。個人差はありますが、細胞を採取する際、子宮頸がん検診より少し痛みが強いのが困りものです。細胞診検査で疑わしいところがあれば、更に内膜組織を採取し、病理検査を行い、診断を確定します。閉経後の女性の場合は、腟からの超音波検査(経腟超音波検査)で子宮の内膜の厚さを測ることも有効です。

子宮体がんの治療

子宮体がんの治療法は、手術、放射線治療、化学療法、黄体ホルモン療法などがあります。しかし、子宮体がんは放射線が効きにくいことや、抗がん剤の標準治療の確立が遅れていることなどから、治療の第一選択は、【手術】です。基本的には手術により、子宮と卵巣、卵管を摘出します。

子宮体がんは、卵巣に転移しやすいため、がんが子宮内膜の中だけにとどまっていたとしても、卵管や卵巣も一緒に摘出するのが基本です。また、がんが子宮内膜を超えて広がっている場合は、子宮周辺のリンパ節も切除します。手術で子宮や卵巣の摘出が出来れば、かなり進行したがんであっても治る可能性があります。手術後は、病期の確定と、術後の再発リスク分類による判定を行い、結果に応じて化学療法などを追加します。

妊娠を望む場合は、条件を満たせば「ホルモン療法」という選択肢も

しかし、将来子供を持つことを強く希望している場合には、手術ではなく「黄体ホルモン療法」という、妊孕性(妊娠できる機能)温存療法を受けられる場合もあります。子宮内膜の増殖を抑える働きのあるプロゲステロン(黄体ホルモン)薬を、最低でも半年間服用します。
ただし、その効果には限界があり、治療を受ける場合は次のような条件を全て満たす必要があります。

・40歳未満
・配偶者やパートナーがいる
・がんが子宮内膜にとどまっている
・がんの悪性度が低い
・高度の肥満でない
・重症の肝機能異常や血栓症(既往を含む)がない  など

ホルモン療法の治療成績は手術よりかなり低く、がんが消えても、治療を止めるとがんが再発する危険性があります。また治療後必ず妊娠できるわけではありません。ホルモン療法のメリット、デメリットなどを十分理解し、担当医と相談した上で行う事が大切です。

子宮体がんの予防はできる?

子宮体がんの増加は、生活習慣の欧米化、食生活の変化により生活習慣病が増えたこと、また、少子化や、結婚しない女性も増え、妊娠・分娩回数が減少していることなどが原因と言われています。つまり、これらの危険因子をできるだけ避ける事が予防につながります。

バランスのとれた食事と適度な運動

糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満などの生活習慣病は、体内のエストロゲンを増やし、子宮体がんのリスク増加につながります。食事は、動物性脂肪を控え、野菜や果物を積極的にとるようにして、バランスのよい食事を心がけましょう。また、日常生活での活動量を増やすとともに、適度な運動を習慣として行い、肥満の予防・改善につとめましょう。生活習慣病の予防・治療は、内科だけでなく婦人科にとても大切なことで、 子宮体がんの発症予防につながることを覚えておきましょう!

規則的な月経を心がける

厚くなった子宮内膜が剥がれ落ち、体外に排出されるのが月経です。月経が規則的に来ていれば、たとえ内膜に何か異常があったとしても、毎回剥がれ落ちて流れていきますが、何らかの原因で内膜が厚くなったまま剥がれ落ちずに蓄積されていくと、がん化していく可能性があります。つまり、生理不順や、排卵を伴わない出血など、生理周期が乱れていることは子宮体がんになるリスクになると考えられます。

そのため、月経がきちんと来るように常々コントロールしておく事が大切です。月経不順が極端な場合は、ホルモン剤で定期的に月経が起きるようにするのがよいでしょう。20代、30代の若い方でも、月経が不規則な人、多嚢胞性卵巣症候群や排卵障害がある人は周期的に月経を起こす治療を受けることが大切です。

低用量ピルの内服が、子宮体がん予防に繋がる事も

低用量ピル(以下、ピル)の服用は、子宮体がん発症リスクの低下につながることが明らかにされています。ピルの服用期間が長ければ長いほど子宮体がん発症のリスクは低下し、服用中止後も20年以上効果があると報告されています。ピルは、避妊を目的として開発されたエストロゲンとプロゲステロンの配合薬ですが、周期的に月経を起こすことができます。ピルの服用は卵巣がんの発症リスクも低下させますし、月経痛や過多月経も解消してくれます。現在、月経困難症でお悩みの方は、月経の痛みや不調も軽くなり、結果的に子宮体がんの予防につながるので、かかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。

ただし、ピルの服用は子宮体がんや卵巣がんのリスクを低下させる一方で、乳がんや子宮頸がんのリスクは高まるという報告もあります。そのため、ピルを服用する場合はリスクをしっかりと確認し、心配事があれば医師に相談するようにしてください。

異型子宮内膜増殖症と診断された場合は、すぐに治療を受ける

子宮体がんの前がん状態は、異型子宮内膜増殖症です。子宮の中に分厚くなった古い内膜がいつまでもとどまっていると、次第に悪性化して子宮体がんに移行する可能性があるため、異型子宮内膜増殖症と診断された場合は、適切な治療を受けることで子宮体がんを予防できます。

上坊先生からのメッセージ

婦人科の病気は、治療が難しいものもありますが、中でも子宮体がんは大変コントロールしやすい病気です。早期発見すれば、治療も手術だけで済むことが多く、95%近くが治るがんです。それだけに、早期発見が何より大切です。怖がらず、何か心配事がある時には、ぜひ気軽に婦人科に相談に来て欲しいと思います。

上坊 敏子(じょうぼう・としこ)先生

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)
相模野病院婦人科腫瘍センター顧問

【プロフィール】1973年名古屋大学医学部卒業。北里大学病院で研修後、同医学部講師、助教授を経て、平成19年に教授に。同4月から社会保険(現独立行政法人地域医療機能推進機構)相模野病院婦人科腫瘍センター長、令和元年4月から現職。専門は婦人科腫瘍学。日本産科婦人科学会専門医、細胞診専門医、国際細胞学会会員、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。著書に「女医さんシリーズ 子宮がん」(主婦の友社)「知っておきたい子宮の病気」(新星出版社)「卵巣の病気」(講談社)など。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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