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2022.03.13

卵巣がんはサイレントキラー?押さえておきたいリスクと症状とは【卵巣がん・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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早期発見が難しいと言われる「卵巣がん」。早期には自覚症状はなく進行スピードも早いにも関わらず、会社や自治体の検診や、人間ドックの検査項目に「卵巣がん」は入っていません。では、女性はこのがんにどう向き合えば良いのでしょうか?

今回の記事では、リスク要因や予防法など、絶対に押さえておきたい「卵巣がん」の基礎知識をお伝えします。 お話を伺ったのは、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)相模野病院婦人科腫瘍センター顧問の上坊敏子先生です。

上坊 敏子(じょうぼう・としこ)先生

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)
相模野病院婦人科腫瘍センター顧問

【プロフィール】1973年名古屋大学医学部卒業。北里大学病院で研修後、同医学部講師、助教授を経て、平成19年に教授に。同4月から社会保険(現独立行政法人地域医療機能推進機構)相模野病院婦人科腫瘍センター長、令和元年4月から現職。専門は婦人科腫瘍学。日本産科婦人科学会専門医、細胞診専門医、国際細胞学会会員、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。著書に「女医さんシリーズ 子宮がん」(主婦の友社)「知っておきたい子宮の病気」(新星出版社)「卵巣の病気」(講談社)など。

卵巣とはどんな臓器?

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卵巣は、子宮体部の両側に一個ずつぶら下がっている臓器です。卵巣の大きさは親指の先ほど。重さは5〜8gの小さな臓器ですが、「排卵」と「女性ホルモンの分泌」という、2つの非常に重要な役割を担っています。排卵は、妊娠するためになくてはならない現象ですし、女性ホルモンは妊娠を維持するだけでなく、骨代謝、脂質代謝など女性の体内の様々な代謝に大きな影響を与えています。

子宮は月経の出血の元になる場所であり、妊娠すれば非常に大きくなりますから、女性が意識することの多い身近な臓器ですよね?「子宮を取ると男になる」と思っている女性がいますが、子宮はホルモンを分泌することはありませんから、仮に摘出したとしても、体には影響がありません。

実は、卵巣こそが、「女性にとってなくてはならない臓器」なのです。

40代以降に急激に増加する「卵巣がん」とは?

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その「卵巣」に発生するがんを、「卵巣がん」といいます。卵巣がんの発生原因は、はっきりとは解明されていませんが、「遺伝的な要因」も大きく、卵巣がんの約10%は遺伝性だと考えられています。

卵巣がんは40歳代から急激に増加します。日本では、年間およそ10,500人が発症していて、その数は増加の一途をたどっています。残念ながら、現在のところ有効な検診や早期発見の方法は確立されておらず、早期発見の難しいがんといえます。進行速度も早いため、がんが見つかった時には、かなり進行していたというケースも少なくありません。

卵巣がんの種類

卵巣にできる腫瘍は、腫瘍が発生する組織によって、大きく3つのグループ「上皮性腫瘍」「性索間質性腫瘍」「胚細胞腫瘍」に分けられていて、それぞれがさらに良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)に分けられています。
卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の、およそ90%が「上皮性腫瘍」のタイプで、一般的に「卵巣がん」という時は、このタイプのがんを指しています。この記事では、「卵巣がん」=「上皮性がん」として説明していきます。

卵巣がんの症状

初期

初期はもちろん、かなり進行してもあまり特徴的な症状がありません。しかも、卵巣がんは進行が早いため、「サイレントキラー(無言の殺人者)」と呼ばれています。

進行した場合

一般にがんになると卵巣は大きく腫れてきますし、進行すれば腹水が溜まることも多いので、下腹部の張りや腹部のしこり、腹痛、圧迫感などがあらわれます。また、不正出血で病院を受診して、卵巣がんが見つかる事もあります。残念ながら「この症状があるから卵巣がん」という、特徴的な症状がない上に急激に進行することが多いため、早期に発見するのが難しく、卵巣がんが見つかった時には半数以上の人は、すでにがんが進行してしまっているのが現状です。不正出血や、腹部の違和感があった場合は、早めに婦人科を受診することが大切です。

卵巣がんリスクの高い人は?

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妊娠・出産歴がない、少ない

妊娠・出産回数が少ない人ほど、卵巣がんのリスクは高くなります。排卵時には卵巣から卵子が飛び出すため、卵巣が傷つきます。そのたびに、卵巣は損傷と修復を繰り返していますが、その過程で、がんが発生しやすくなると考えられています。妊娠・出産経験がない人は、必然的に生涯の排卵回数が多くなるため、卵巣がんの発生リスクが高くなります。

卵巣チョコレートのう胞がある

卵巣に子宮内膜組織が増殖する「卵巣チョコレートのう胞」は、0.7~1%の頻度でがん化するというデータがあります。チョコレートのう胞自体はよくある病気なので、「チョコレートのう胞=卵巣がんになる」と思う必要はありません。しかし、卵巣がんは正確な診断が難しく、子宮がんに比べると進行が早い病気です。この事を忘れずに、定期的に検査を受けて、必要があれば治療を受けて欲しいと思います。

家族に卵巣がん・乳がん経験者がいる

卵巣がんの約10%は遺伝性で、「血縁者に卵巣がんや乳がんを発症した人」がいる場合は、リスクが高いといわれています。
卵巣がんを多発する代表的な家系には、卵巣がんと乳がんが多発する【遺伝性乳癌卵巣がん(HBOC)家系】と【リンチ症候群(大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、胆道がん系、腎盂・尿管がんなどが多発する)】の家系があります。

遺伝性乳がん卵巣がんは、「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子の変異が原因です。「BRCA1」と「BRCA2」遺伝子は、どちらもがん抑制遺伝子で、この遺伝子に異常があると、発がんを抑えるブレーキが外れた状態になり、がんが多発します。50~80%の女性が乳がんを、70歳までに40%以上が卵巣がんを発症します。

リンチ症候群に関係している「DNAミスマッチ修復遺伝子」は、遺伝子情報を正しく伝えるための重要な遺伝子です。異常があると発がんのリスクが高くなり、この家系では、生涯に卵巣がんを発症するリスクは12%と報告されています。

40歳以上、閉経後の女性は要注意

卵巣がんは40歳以上の女性に多発します。高齢女性の卵巣腫瘍はがんの頻度が高く、閉経後の卵巣腫瘍は40〜50%は卵巣がんです。

子宮体がん・乳がんになったことがある

年齢に関係なく、子宮体がん乳がんにかかった人は、卵巣がんになりやすい事が分かっています。特に、40歳未満で子宮体がんになった女性は卵巣がんのリスクが非常に高くなります。

子宮体がんの場合は、基本的には手術で子宮と卵巣を摘出するので、卵巣がんは余り気にしなくてもいいかもしれません。しかし、妊娠を望む若い子宮体がんの患者さんがホルモン治療を受ける場合は、治療方針を決める時や経過観察を受ける時に卵巣の状態を注意深く観察する必要があります。

また、乳がんにかかった女性は卵巣がんのリスクが高いと報告されています。乳がんの治療を受けている女性、治療を完了している女性は、「卵巣がんのリスクを持っている」と意識して、定期的に検診を受けて欲しいと思います。

後半では、卵巣がんの治療と予防法について詳しくお伝えします!

早期発見の方法や、原因など、まだまだ解明されていない事が多い卵巣がんですが、徐々に予防方法がわかってきています。後半では、その注目されている予防方法と治療方法を詳しくお伝えします。

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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