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2018.10.11

治療とその後の話【目からウロコ!?乳がんの話#4】

KenCoM公式:ライター・緒方りえ

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乳がんをそのまま放置しておくと、がん細胞が徐々に増加します。そして、リンパや血液に乗って転移してしまうこともあるでしょう。
乳がんは早期に発見すれば、手術などの治療で治すことができる病気です。
今回『乳がんの手術』についてお話をしてくださったのは、乳がん治療のスペシャリストである昭和大学病院乳腺外科准教授 明石定子(あかし さだこ)先生です。

乳がんの治療ってどんなもの?

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実は、乳がんは1つの病気ではなく色々な種類に分類されていて、どのタイプの乳がんなのかによって治療法が違ってきます。まずは、自分の乳がんのタイプを調べてもらってから焦らずに治療を開始することが大切です。
また、将来的に子供が欲しい場合は卵子をとって凍結保存することを先に済ませたりすることもあります。自分の目標やライフスタイルに合わせて治療を考えることが必要になるでしょう。

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基本的にはがんの周囲を1〜2cm余裕をもって切り取ります。しこりが大きければ大きいほど切り取る大きさは大きくなるので、同じ温存と言っても切る範囲は様々です。また、乳房の端っこの方であれば切り取るボリュームは小さくて済むことになります。
変形が目立つようなことが予想される場合は、無理に温存せずに全摘を勧めることもあります。

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乳房の中には小葉と乳管があって、がんの8割は乳管から出てきます。がんは乳管の中だけに留まって増殖するものと、乳管の壁を破って外に向かって育っていくものがあります。
がんのステージ(がんの進行具合)=乳管の外まで侵してしこりを作っている大きさとリンパ節や肺・骨など、他の臓器への転移の有無で決まります。100%乳管の中だけに留まっている場合はステージ0期です。
温存か全摘かの判断は、がんが乳管に沿ってどこまで広がっているかで決まります。0期であっても乳管の中の広い範囲に及んでいる時は全摘適応となります。

温存するのか全摘にするのかについての判断に、がんのステージは関係ありません。

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自分のお腹の脂肪や背中などの筋肉を持ってきて膨らみを作る方法や、短時間でできる方法としては大胸筋という筋肉の下にシリコンを入れる場合もあります。
乳頭を残せるかどうかは、がんが乳頭まで広がってしまっているかどうかで決まるので、残せることもあれば残せないこともあります。
再建をすることによって、乳房の喪失感が軽減したり補正パットの下着が不要になるなど、日常生活が過ごしやすくなります。

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センチネルリンパ節とは、乳がんがもしリンパ節に転移する場合に最初に転移するであろうリンパ節のことで、通常脇の下にあります。センチネルリンパ節生検とは、超音波やCT検査などで脇の下に転移を疑うリンパ節がない時に、手術時にセンチネルリンパ節だけを取って、転移があるかないかを顕微鏡で確かめる方法で、これに転移がなければ、最初に転移するリンパ節に転移がないということで、残りのリンパ節は大丈夫と判断し、郭清(残りのリンパ節をきれいに切除すること)は不要となります。
リンパ節郭清では、最初から脇の下にあるリンパ節に転移があるとわかっている時に手術で取ってくることです。
乳房の再建は、前述した通り。手術中に再建を行うか、手術後に一定期間を置いてから行うかは病状などによって選択されます。

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治療で使う薬は、どのタイプの乳がんなのかによって違ってきます。
タイプによっては抗がん剤を使わないことも。例えば、ホルモン剤がすごく効くタイプの乳がんには、抗がん剤よりもホルモン剤が第一選択です。
薬の選択は複雑ですので、医師にしっかり判断してもらいましょう。

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基本的にセンチネルリンパ生検のあとは、特別何かリハビリをしなければならないということはありません。
リンパ節郭清の場合は、術後何年経っても重いものを持ったり怪我で化膿したのをきっかけにむくみが出てしまうことはありますが、基本的には何をやっても良いでしょう。運動もOK。むしろ動いた方が良いと考えられています。
リンパ節郭清をした側の腕のつっぱり感や腕の上がりづらさを感じる時は、腕をあげるリハビリを行いましょう。

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検査・通院頻度は、がんの状況によって違ってくるので医師と相談して決めます。1年毎の人もいれば3ヵ月毎の人もいます。
手術後に頻回にいろんな検査を受けている場合と、何か症状があってから検査した場合で比較すると、その後の生存率に大きな差はないというデータがあります。日本をはじめ世界中のガイドラインでは症状のない時点での「転移を見つける検査」は勧めていません。ただし、ただし、医療が進歩により変わってくるかもしれず、現在、臨床試験を進めている段階です。

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患者会の情報に関しては、通院先の病院などで紹介してもらえます。もちろん、ご自分でインターネットを活用して探すのも良いでしょう。私の経験では、女性よりも男性の方が辛さを周囲に出すことが苦手な人が多い印象で、患者さんの夫の方が滅入ってしまうこともあります。家族に話しづらい気持ちなどを共有できる場も、必要かもしれません。
また、患者さんの悩みで多いのは薬の副作用。抗がん剤の吐き気止めはすごく改良されてきているのでたくさん嘔吐してしまうということは少ないですが、だるさやむくみなどの副作用はあるでしょう。そして、基本的には髪の毛も抜けるのでカツラを選んでもらったりしています。病院にはカウンセラーや専門の資格を持った看護師などもいるので相談することもできるでしょう。

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重粒子線で消えるがんもありますが、乳がんが消えたと思ったけど実は小さくなっただけでそこに存在していて、再発してしまうということも多いのです。手術で取り除いた方が確実です。
また、重粒子線治療の最大のメリットは、がん周囲の大切な臓器を攻撃せずにがん細胞だけを破壊できるということ。しかし、乳腺の周囲でどうしても守らなくてはいけないものはないので、何百万円も支払って重粒子線を選ぶメリットは低いのです。

よく考えて心の準備を!

乳がんは他の病気と違って、一刻を争うような病気ではありません。急ぐよりも、自分の病気をしっかり把握しながら治療に進むようにしましょう。
そのためには医師との信頼関係も大切。正しい情報と選択を提案してもらい、納得のいく治療を目指しましょう。

■乳がんの記事はこちらから!

明石定子(あかし・さだこ)先生

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1965年生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三外科に入局。1992年より国立がん研究センター中央病院外科勤務。同乳腺外科がん専門修練医、医員を務めたのち、2010年に乳腺科・腫瘍内科外来病棟院長。2011年より昭和大学病院乳腺外科 准教授に就任。日本外科学会指導医・専門医、日本乳癌学会乳腺専門医・指導医・評議員、検診マンモグラフィ読影認定医師。

著者プロフィール

■緒方りえ(おがた・りえ)
1984年群馬県生まれ。20代から看護師として活動をする傍ら、学会への論文寄稿や記事の作成なども行う。2015年独立しフリーの編集者として活動。2017年より合同会社ワリトを設立し代表社員に就任。医療系を中心に、旅行、雑貨など幅広いジャンルでフリーライター、フリー編集者として活動中。

(撮影/KenCoM編集部 取材・文/緒方りえ)

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