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2020.09.26

日本人の罹患率1位大腸がんは検診で防ぐ【大腸がん・前編】

kencom公式ライター:森下千佳

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様々ながんの中で日本人が最も多くかかっているのが「大腸がん」です。早期に発見し適切な治療を受ければ治る可能性が高いにもかかわらず、肝心の検診受診率は欧米に比べて低いまま。結果として死亡者数は増加の一途をたどっています。自分や、大切な人を大腸がんで失くさない為にも、押さえておくべき「大腸がんの基礎知識」を東京大学医科学研究所 フロンティア外科学 志田大教授に聞きました。

志田 大(しだ・だい)先生

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東京大学医科学研究所 フロンティア外科学 教授 
東京大学医科学研究所附属病院外科 診療科長
平成8年3月東京大学医学部医学科卒業、茨城県立中央病院・茨城県地域がんセンター、神奈川県茅ヶ崎市立病院、Virginia Commonwealth University (USA) 、東京都立墨東病院を経て、平成25年1月より国立がん研究センター中央病院 大腸外科医長。令和2年9月より現職。

大腸がんは最もかかりやすいが、治癒可能ながん

大腸がんは日本人の罹患率1位

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録),2017年

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録),2017年

新たに大腸がんに罹る人は1年間で15万3千人(2017年時点)にも上ります。部位別の罹患数を見てみると男性は前立腺がん、胃がんについで3位、女性では乳がんに次いで2位、男女合わせると1位で、「大腸がんは日本人が最も罹りやすいがん」となっています。しかも、年々罹患率が増加している為、この傾向はしばらく続くと見られています。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)及び(人口動態統計)から作表

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん登録)及び(人口動態統計)から作表

一方で、大腸がんは早期に発見すれば、ほとんどが「根治可能ながん」。大腸がんの罹患率と死亡率の推移(上グラフ)を見てみても、罹患者数は急激に増えているのに対し、死亡者数の上昇率は緩やかで、大腸がんが治癒可能ながんであることがわかりますし、今後はさらに減少傾向になると言われています。
だからこそ、きちんと検診をして、適切な治療をすることが非常に大切です。

「治りやすいがん」と言われるわけは?

「大腸がんが治りやすいがん」と言われえる所以は2つあります。

・大腸自体が切除しやすい臓器であるという特性を持つため
・治療法がきちんと確立されているため

大腸は大きな臓器でありながら酸素や栄養素を補給する動脈が限られ、転移の可能性が大きい周囲のリンパ節との関係も比較的単純です。その為、がんの発生箇所や大きさ、進行度などから切除範囲が明確で、「この範囲を切除すれば治る」という事がすでに確立されています。

また、他の臓器に転移した場合も、そのがんを切り取る事ができれば根治を望めるのも大腸がんの特性。たとえ進行がんであっても、適切に治療ができれば根治の可能性があると言えます。

大腸がん増加の原因は?

原因の一つは「高齢化」です。平均寿命が伸びた事で、遺伝子変異を起こす方が多くなり、大腸がんが増えていると言われています。
もう一つの原因が、「生活習慣の変化」。特に食生活が欧米化して赤身肉を食べるようになった事などが、大きく影響していると言われています。
30年ほど前は、日本人は大腸がんになりにくいと言われていました。ところが、今では罹患率は第1位。30年の間に大腸がんになる割合がおよそ5倍になっています。

早期発見の要、大腸がんの検査・検診方法

早期の大腸がんには、ほとんど自覚症状がない為、早期発見には定期的な検診が非常に重要です。検診の大まかな流れは、年一回の便潜血検査を受け、がんの疑いがあれば、精密検査(大腸内視鏡検査)によってがんの病変の有無を確認します。
それぞれの検査について見ていきましょう。

便潜血検査

便潜血検査はがん検診のなかでも最も有効性が証明されている検査です。この検査で大腸がんによる死亡率を約60〜80%低下させる事ができ、進行がんをおよそ半分に減らす事ができると言われています。痛みのない簡単な検査なので、40歳以上の方は、年に1回は受けることをおすすめします。

大腸内視鏡検査

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大腸内視鏡検査は、内視鏡を肛門から挿入して大腸の粘膜の様子を調べます。病変が見つかったときは組織を採取して調べたり、早期であればその場でポリープやがんを切除したりすることもあります。
便潜血検査に比べ、内視鏡検査は明らかに大腸がんを見つけられる可能性が高いので、40歳以上の方で機会あれば、一度受けておくと安心です。

大腸がんの一般的な治療法

続いては大腸がんの治療法です。
大きく分けて「内視鏡治療」「手術」「薬物療法」があり、これらをがんの進行度に応じて、単独、あるいは複数組み合わせて治療をしていきます。

内視鏡治療

早期がんのなかでも、がんが表面の粘膜内に留まっている状態であれば、内視鏡治療で完全に治す事ができると言われています。開腹しないので身体に対する負担が少ない治療法です。外来治療が可能で、入院が必要な場合も期間が短くて済みます。
内視鏡の先端部にはライトや小型レンズが装着されているほか、用途に応じて必要な処置具が出し入れできる鉗子口が設けられていて、病変の種類や形状によって処置具を変えて治療が行われます。

手術

大腸がん治療の基本は手術療法で、切除が可能な限り、元々のがんはもちろん、転移したがんであっても手術を行っていきます。
手術は、がんの発生している部分だけではなく、目に見えないがんが周りに広がっていることを想定して、がんの周りの腸を20cmと、転移の可能性のあるリンパ節を全て切り取ります。その後、残った腸管をきちんとつなぎ合わせるという手順です。
手術の方法は、開腹手術と腹腔鏡下手術がありますが、患者への肉体的負担が少ないため、現在は大腸がんの手術の7割近くが腹腔鏡下手術で行われています。

薬物療法

薬物治療では、主に抗がん剤を使用していきます。抗がん剤が使われる目的は、大きく分けて2つ。
1つは手術後の「再発予防」として使われます。手術で確認できる範囲でがんを取り除いても、細胞レベルのがんが残っている可能性があります。そういった目には見えないがんを攻撃して再発を防ぎます。
もう1つは、「がんの縮小と進行抑制」です。手術だけではがんを取り切れないような進行したがんの場合や、再発したがんに対して使われます。抗がん剤の治療によってサイズが小さくなるなどして手術が可能になった場合は、手術を行い積極的に根治を目指します。

大腸がんの抗がん剤はめざましく進歩していて、ステージ4のような進行がんであっても、治療の選択肢が増えています。近年では、特定の遺伝子を持つがん細胞を狙い撃ちしてがんの進行を抑える「分子標的薬」の開発が進み、生存期間が延びています。

ここまで進んでいる!最先端の大腸がん治療と予防法とは

ここまでは大腸がんの基本的な仕組みと検査、治療法を解説してきました。
後編では、進歩が目覚ましい大腸がん治療の、更に先を行く「最先端治療」と、大腸がんのスペシャリストが実際に行っている「がん予防法」をお伝えします。

■大腸がんへの最新アプローチと予防法はこちらから

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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