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2021.11.10

がんになっても働き続けるためのヒントを探る【がんと仕事:Q&A】

kencom公式ライター:森下千佳

もし自分ががんになったら仕事や生活はどうすればいいのだろう……。そんな不安を少しでも和らげるヒントを、国立がん研究センターがん対策研究所の土屋雅子先生に伺いました。

Q.「がん=不治の病」というイメージが強く、前向きに生活することができません。がんに立ち向かうための心の持ち方を教えてください。

A.不安な気持ちでいらっしゃるのですね。近年、がんは不治の病ではなく、「がん=長く付き合っていく慢性病」という捉え方に変ってきています。「日本人の2人に1人は、生涯で何らかのがんになる」と言われていますから、非常に身近な病気といえます。多くの方が治療をしながら、もしくは治療を終えて社会生活を送っていらっしゃいます。

もしかすると、一人でいると考えこんでしまったりするかもしれません。また、「病気になる前に好きだったことをやめてしまった」などもあるかもしれません。がんサバイバーの方の体験談を聞いたり、ご自身と同じように闘病中の仲間と話し合う機会は大きな励みになります。体験談は、全国の各医療機関やNPO法人が開催する講演会などで聞くことができますし、最近はオンラインで講演会も沢山行われています。また、国立がんセンターのホームページでも、経験者の方の体験談を掲載しています。

「皆、このように考えているのか」「治療後、このぐらい経てば、こんな社会生活が送れるんだ」など、具体的なイメージを持てるかもしれませんし、「不安な気持ちは皆が抱えているけれど前向きに生活している」と知ることで力をもらえるかもしれません。

また、NPO法人などが開催する患者会などに参加されて、闘病中の仲間と話し合う機会も大きな支えとなるでしょう。NPO法人の活動は、病院では言いにくいことや、悩みなどの本音を共有しあえる場所として、大切な役割を担っています。数多くのNPO法人が独自の支援活動を行っているので、どこが心地よく感じられるか、一度参加してみると良いと思います。

Q.家族ががんになってしまったときは、どう支え、心身のケアをしたら良いのでしょうか?大切なポイントを教えてください

A.家族の誰かががんになると、精神的、肉体的、経済的に、支えるあなたにも様々な負担がかかる事があります。もちろん、がんになられた方へのケアは大事ですが、自分を大切にする事も忘れないでください。無理をするとあなたが身体を壊してしまったり、ストレスが溜まって、あなたらしいサポートできなくなってしまうかもしれません。

そうならないためにも、第三者のサポートを借りる事を躊躇せず、支えるご家族が自分の事を考えたり、リフレッシュする時間もきちんと確保してほしいと思います。

もし患者さんの精神的なゆらぎが大きい場合は、精神科医や、心理士など、専門的な心の相談をできる場所に同行することも立派なサポートだと思います。

また、ご家族のための支援団体もあります。ただ話を聞きに行くだけでも、励みになるでしょう。医療機関にある「相談支援センター」などの第三者に相談できる場も、積極的に活用していただきたいと思います。

Q.治療後の体調がイメージできないので、休職期間を決めかねています。どうしたら良いですか?

A.同様の悩みを持つ方は、多くいらっしゃいます。特に、初めての化学療法の前には、どの程度の副作用が出るのか予想できず、不安になりますよね。

同じ治療を受けても、回復具合や体調には個人差がありますが、目安はありますので、主治医によく相談していただくのが良いと思います。また、どの程度の休職が必要になりそうかについても主治医に相談し、シナリオをいくつか作っておき、一番可能性の高いシナリオに沿って、暫定的な計画をたてて、職場に休みを申請するとよいと思います。
その際に、職場には予定が変わる可能性があることも忘れずに伝え、状況に応じてこまめに連絡をとることが大切だと思います。

Q.副作用を周囲に理解してもらえません。どうしたら良いでしょうか?

A.倦怠感など、副作用は外から見ると分かりにくいものが多いので、理解してもらい辛いという声をよく聞きます。

副作用の出方には個人差があります。また、同じ副作用でも仕事内容によって影響は様々です。身体と向き合いながら、楽になれる対処方法を試行錯誤し、必要があれば休憩場所の確保や勤務時間の変更、一時的な在宅ワークなど、職場に配慮してほしいことを伝えて、会社と相談してみましょう。その際、状況をできるだけ正確に把握し、会社側になるべく詳しく、具体的に分かりやすく伝えることが大切です。同時に、配慮が必要になる期間のおよその目安も伝えると、会社側も対応しやすくなります。期間のめどについては、主治医に相談しましょう。産業医や産業看護職がいる場合は、ぜひ相談してみてください。

がん研究センターのHPに、治療後に起こる様々な悩みや、副作用への対応など、療養生活のためのヒントがまとめられていますので、ぜひ参考になさってください。

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参考

土屋 雅子(つちや・みやこ)先生

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国立がん研究センターがん対策研究所
医療提供・サバイバーシップ政策研究部

【プロフィール】
Chartered Psychologist(英国)、指導健康心理士、キャリアコンサルタント、(旧)国立小児病院研究助手、香港大学医学部助手、千葉大学看護学研究科特任研究員を経て、2015年から国立がん研究センターに勤務。これまでがん患者の就労支援に関する研究,資材開発,および研修等の講師として活動.

著者プロフィール

■森下千佳(もりした・ちか)
フリーエディター。お茶の水女子大学理学部卒。テレビ局に入社し、報道部記者として事件・事故を取材。女性ならではの目線で、取材先の言葉や見過ごされがちな出来事を引き出す事を得意とする。退社後、ニューヨークに移住。当時、日本ではなかなか手に入らなかったオーガニック商品を日本に届けるベンチャー企業の立ち上げに関わる。帰国後、子宮頸がん検診の啓発活動を手がける一般社団法人の理事を経て現職。一児の母。

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